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舟編みの人~第7話・要らぬ勘繰り~

朝倉
「役不足と力不足をごっちゃにして遣っている人多いな…」
伊島
「他にも…
 ごっちゃになりそうな言葉ありますよね…」
朝倉
「憮然と言う言葉とかは本当に紛らわしい…」
伊島
「活字にしてみると分かりますけど…
 この憮然と言う言葉…
 音の響きに引きずられて全然違った意味合いで遣っている人多いですね…」
朝倉
「実際…
 有名な作家が間違った感じで遣えば…
 それがそのまま浸透してしまうな…」
「それが広がったきっかけは…
 恐らく…
 松本清張が1960年に書いた
 濁った陽の
 一文であろうな…」
「でも…
 それ以前から既に誤用されている感じだから仕方ないな…」
伊島
「それってヤバい言葉の遣われ方ですよね…」
朝倉
「本来の意味とは違ってきてしまっているが…
 これほど浸透しているのでは…
 今更…
 辞書とかから直そうなんて傲慢そのものだよ…」
伊島
「何だか…気落ちしてる様に見受けられますが…」
「憮然って、そうした気落ちして呆然としている様子の事なんですよね。」
朝倉
「凄いとか凄まじいとかヤバいも元々の意味からは変わってしまっている言葉の類いだろうな…」
伊島
「英語で言うとdangerからveryとかmoreくらい意味が変わっていますよね。」
朝倉
「泉の指摘の通りだ…
 でも…
 この言葉の意味合いの変化を…
 日本語で上手く表現出来ないのはどうにももどかしいな…」
「ところで今回の最初の話題に戻るが…
 力不足と役不足は、
 本来…
 対義語だからな…」
「力不足とはその役割を果たす事が出来ないくらい…
 実力が不足している事を表す言葉で、
 その反対語が役不足なんだ。」
「対して、
 役不足の方は…
 もっと凄い事が出来るのに…
 つまらない役回りを与えた事に対して目上の人に文句を言う時に遣う言葉な感じだ。」
伊島
「ところで私…
 朝倉さんの対話相手としては力不足な気もしているんですけどね。」
朝倉
「それは卑下し過ぎなんじゃないか…」
「こんな窓際部署でくすぶっている俺の話し相手になってもらっていて…
凄く勿体ない気もするんだよな…」
「伊島をこんなとこでくすぶらせている…
 この状態は役不足な状態だろ…」
「でも…
 そもそも…
 役不足なんて表現自体が何となく不適切なものに感じられてしょうがないな…」
「どんな端役・チョイ役でも…
 日々の物語を豊かにしていく為には必要な存在だと思う。」
「だからそうした役割に貴賤の差をつける事自体が傲慢な考えな気がする。」
伊島
「朝倉さん…素敵ですね…」
朝倉
「あのな…
 こないだお礼しただろ…
 これ以上…媚び売るんじゃねえ…」
伊島
「素直に感動したのに…
 照れ隠しでも…
 そういう事を言ってしまうとこがウザがられるんですよ…」
朝倉
「んなこたぁ…今更だよ…」

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