ワールドスリップ
怒りっぽい男が改札口から駆け上がっていく。
リュックサックを揺らしリズムを刻み
日頃使い慣れた
スマホを観ていると
兄さん兄さんと呼びかける声がする。
飯も食わずに乗り込む電車。
視線の端には…
日がな暇つぶしにスマホゲームの展開をこれでもかと同じアクションをただ繰り返す人が映る。
そうする事が当然のことの様に黙々と繰り返す情景にどうしたものかと呟くと…
その場に似つかわしくない静寂を感じ異変を感じ取る。
どうやら…
夢の中で誰かの見ている景色を観ているらしい…
言葉のイントネーションから韓国の電車の中らしいのだが…
朝から仲良さそうにやり取りをしているカップルを横目に…
不機嫌そうにしている20代と思しき女性…
最近会社で嫌な事でもあったのだろうか…
それともその手の事を意図的に遠ざけてきたのだろうか…
関心を示しながらも…
自分には縁のない事だと諦めている節がありそうだ…
どうもおしゃれには関心は無い感じだ。
メイクでもすれば…
周囲を驚かせるほどに化けそうなものだが…
無造作な髪の毛に自信なさげに視線を斜めに落としている。
頬周りも何だか頼りない…
知らず知らずのうちに彼女を観察して…
その佇まいを脳内で描き出してしまっている。
まるで彼女を主人公にした物語でも描こうとしている様に…
出来れば…
自分がその相手役にでもなれれば良いのにと…
三文小説でのシンデレララブストーリーを洒落こもうとする自分の浅はかな思考に笑ってしまった所で…
現実に呼び戻される…
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意味不明な言語が頭の中を行き交っている。
否…
頭の中のAIコンパイラが言語設定を日本語に戻せていないらしい…
私の頭に組み込まれた有機コンピューターもガタが来ているらしい…
呼びかけのほとんどが私の意識をこちらに呼び戻す為に発せられたシンプルなものなのだ。
こんな単純な事にも気付かないほどに睡眠下で見せられていた情景に没頭していたらしいのだ。
でも…
もう少し長くその情景…
…ボーっとしていても周りに迷惑がかかるな…
手の感触を確かめながらゆっくり焦らずに動作確認をして…
足の動作プログラムをリブートする。
「済まないな…見入っているうちに…また…意識を飛ばしてしまったらしい…」
「勘弁してくださいよ…度々繰り返してますから…もう対応にも慣れてしまいましたけど…」
「生活の為とは言え…技術確立していないものをモニタリングしたが…
この身体…全然馴染んではくれないし…とんでもない副作用に度々見舞われる…
おかげで時折面白いものを見させてもらうが…
夢オチもここまでくるとパラレルワールドへのワールドスリップだな…」