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舟編みの人~第18話・かたをつける~
伊島
「先輩、今日の仕事は片付きましたか?」
朝倉
「まあ、取り敢えずはな…」
伊島
「何だか奥歯に物が挟まった様な物言いですね。」
朝倉
「今日の仕事の体裁は整えたが、
今回のプロジェクトの事となると、
まだまだ輪郭を描いている途中だよ。」
伊島
「乗っていないというか、
今回は、
いつになく慎重ですよね。」
朝倉
「後輩たちには悩む姿も見せておくべきなんだろうが、
それでも何も動いていない状況を見せても、
付き合わせる時間の無駄だからな。」
伊島
「確かに…悪戦苦闘する姿を見せるにしても、
なにがしか動く中で見えてくるものを見せたいですからね。」
朝倉
「どうにも形無しになってしまっているところはあまり見せたくないな…
ただただ、
格好がつかない姿をさらけ出すだけだし…」
「格好悪い姿を見せるにしても、
どうせなら自分なりに築き上げた型を見せたいからな…」
「日本では芸事を精進する中で守破離という概念があるのだけれど、
そうした概念…
先人からのせっかくの良いものを無視して、
イチから世の中のものを作り出そうとすると…
どうしても時間がかかってしまう。
それはそれでやる意味があると言えばあるのだけれども…
ただ、
基本も何も見当がついていないのならば、
向こう見ず…無茶と言われても仕方がない気はする。」
伊島
「先輩が仰るように、
時には、
先人が残したものを疑って、
道のない場所から道を作っていかなければいけないのでしょうけどね。」
「因みに、
守破離を辞典で引くとこんな感じですね。」
守破離【しゅ・は・り】
剣道や茶道などで、修業における段階を示したもの。
「守」は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。
「破」は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。
「離」は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階。
朝倉
「敢えて険しい道行きをするつもりでないのならば、
先人からある程度、
道を教わっていけば、
より遠くの道程を歩んでいく事ができるのではないかと、
俺はそう考えているのだけどな。」
伊島
「余程、
形無しと言ってしまうようなものならまだしも、
先人の試行錯誤の末の苦労の跡を信用しても良いのではと思ってますよ。
単なる請け売りで終わってもいけませんけどね。」
朝倉
「泉の言う通りだな…
ホント…
先人の努力の結晶を活かしながら、
自分なりのものも織り込んでいく…
そういうのが結局は辞書作りの真髄だ。
だからこそ、
このプロジェクト…
何とか方がつくようにしたいものだな…」