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舟編みの人~第28話・二つ返事~
朝倉
「明けましておめでとう」
佐藤
「明けましておめでとう」
朝倉
「今年も色々とよろしくな」
佐藤
「以前は邪険に扱っていたのに…
この頃…
随分な変わりようだな…
結婚してから余裕が出てきたか?」
朝倉
「それもあるんだろうが、
お前が冷やかしや…
からかいの類いをやったらやったで…
俺が引き受ける覚悟が定まったのもある。」
佐藤
「にしても…
職場での年末年始のドタバタもあったが…
結局…
式やお披露目会やって無いよな…」
朝倉
「そんな浮付いた事をやる余裕なんてありゃしないよ…」
佐藤
「まあ…
昔みたいに右肩上がりの経済状況じゃないもんな…」
朝倉
「職場結婚で小さな会社だから、新年会で報告して仕舞いさ。」
佐藤
「そんなんじゃ社長が二つ返事で終わらせてなんかくれやしないぞ。」
朝倉
「改めてやらなきゃいけなくなったら…
それは…
その時で考えるさ…」
佐藤
「社長がいつになく祝いの言葉や歌の練習や準備をしてるんだ。
その出番を奪ってやるなよ…」
朝倉
「去年は年始当初から不穏な話や悲しい話ばかりだったからな…
俺の所だけ浮かれる気分にはなれないよ…」
佐藤
「去年は去年…
今年は今年だ…
そうした話も落ち着いた頃だし…
そろそろ景気づけにやっても良かろう」
朝倉
「まあ…もう少し様子を見てみるよ」
佐藤
「煮え切らないな…
そこは二つ返事で軽く返すくらいの余裕を持てよ。」
朝倉
「でもなあ…」
佐藤
「そんなんじゃ…からかい甲斐がないだろが…」
朝倉
「お前にからかわれる為に結婚したんじゃないよ。」
佐藤
「結婚の事がなくても、からかう気満々だったんだけどな。」
朝倉
「そう言う所が同期以外に煙たがられる原因だと…
いい加減気付いたらどうだ…」
佐藤
「気付くも気付かないも俺のアイデンティティだ。
今更な事を言うなよ…」
朝倉
「自覚していて自制していないんだったら…
それはそれで質が悪い…」
佐藤
「流石に取引先とのやり取りの時は自制してるよ…
生活が懸かっているからな…」
朝倉
「昔に比べたら…
そうした事に寛容な世の中じゃなくなっているんだ…
これからは会社の中でも気をつけなきゃいけないぞ。」
佐藤
「にしても…
世知辛い世の中の雰囲気が…
この会社の中まで色濃くなってきてるの息苦しくてかなわないな…」
朝倉
「それだけ俺たちの世代が…やんちゃし過ぎたって事だと思うよ。」
佐藤
「まあ…
自分達の意見だけ言って一方的に押し付けて…
会話してこなかったツケなんだろうな」
朝倉
「分かっているなら…
今からでも他のみんなの話を聞いて…
ちゃんと会話し続けろよ…」
佐藤
「ハイハイ…
わかったよ…」
朝倉
「ホントに…頼むぜ…」