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舟編みの人~第27話・役回りは変わっても~

佐藤
「辞書に関する知識はこれからも必要になるが…
 少なくとも紙媒体の辞書は…
 もう買われなくなるだろうな…」
朝倉
「そうすると俺みたいな奴は御役御免かな…」
佐藤
「少なくとも…
 どの材質の紙が良いのかは聞かれなくなるだろうな…」
朝倉
「詩歌の世界では…
 まだまだ紙の出番はあるんだろ?」
佐藤
「川柳なんかは下手すりゃ年寄り相手の商売だからな…
 むしろ…
 手触りとかを大切にする奴が多いんだよ…」
朝倉
「短歌や俳句に比べるとニッチな商売だろ…」
佐藤
「確かに購買層が年々高齢化してるらしいし…
 全国誌とか地域誌とかには中々ならないから…
 厳しいもんだよ…
 先の暗い商売を若い奴にさせたくはないだろが…」
朝倉
「それでもお前は川柳に拘るんだよな…」
佐藤
「まあ…
 年寄りが鬱憤を晴らすには良い娯楽だよ…
 それにコンクールとかテレビとか…
 まだまだ需要はあるから…
 当分…
 自分が食べていくには充分だよ。」
朝倉
「そう言う話を聞いているんじゃないんだけどな…」
佐藤
「まだまだ世間様にモノ申したいし、
 川柳の出番はこれからもあるだろうから…
 それまでのお守りみたいなのはあるかもな…」
朝倉
「この間の話じゃないけども、
 ハードルが上がっているのは…
 何も告白だけじゃないよな…」
佐藤
「正攻法だけじゃ生きていけないが…
 それでも…
 義理と言うか…
 筋を通しておきたいもんはあるんだよ…」
朝倉
「自分の名前にまで刻み込まれた意地ってもんもあるんだろ?」
佐藤
「それもあるが…」
朝倉
「なんだよ…
 言い淀んで…」
佐藤
「辞書も川柳も役回りってのは変わるんだろうが無くなりはしないさ…
 過去の遺物だと笑われようが…
 それが回り回って必要とされ見直される時がさ…」
朝倉
「一周回って却って初めて触れる奴が増えて新鮮に感じるって事だろ?」
佐藤
「その時に振り返りたいと思っても…
 語り部と言うもんが居ないと寂しいだろうが…」
朝倉
「老害だと笑われてもか…」
佐藤
「若かろうが年取ってようが…
 権力者にとってみれば食って掛かる奴は鬱陶しいもんさ…
 そんな奴の為にも表現の手段ってものを残したいんだろうな…」
朝倉
「ホントに…
 食えねえ奴だな…
 でもまあ…
 腐れ縁でもお前を憎めないのを再確認したよ…」

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