舟編みの人~第30話・ばつが悪い~
佐藤
「伊島く…
あさくら…
泉君…
どうにも…
ばつが悪いな…」
伊島(朝倉)泉
「先生…
どうかしましたか…」
佐藤
「おめでとう…
どうやら漱石と結婚したらしいじゃないか…」
伊島
「ありがとうございます。
それと…
結果論とは言え…
感謝しております。」
佐藤
「別にお礼を言われる様な事なんかしちゃいないよ…
あれしか方法が思いつかなかったとは言え…
泉君には済まない事をしたと思っている。」
伊島
「漱石さんから事情はお聞きいたしました。
もう怒っていませんから安心してください…
それにあんな事がなければ、
漱石さんとは単なる先輩後輩の関係のままだったでしょうし…」
佐藤
「雨降って地固まると言ったところだな…」
伊島
「そう言う事になりますね…」
佐藤
「ところで…
うちの部署の奴ら…
泉君に酷い事していないだろうな…」
伊島
「その辺りは漱石さんと先生が、
睨みきかせてくれているのが効いているので大丈夫です。」
佐藤
「とりあえずは一安心と言ったところか…」
伊島
「この間の事ですけど…
もう川柳のネタにしても大丈夫ですよ…
その代わりに一つお願い事があるのですが…」
佐藤
「そのネタ自体が睨みになるって訳か…」
伊島
「察しが良いですね!」
佐藤
「意趣返しか…
詫びのついでだ…
その話乗ってやるよ…」
伊島
「てっきり断るんだと思いました…」
佐藤
「俺にしてみりゃ…
からかう相手が代わるだけの事だから…
心配無用だ…」
伊島
「先生らしいと言えば…
先生らしい…」
佐藤
「誌面を見たが…
仕事上は旧姓で通すんだな…」
伊島
「一編集者としては…
いつまでも伊島泉で通したいと思います。
なかなかある名字ではありませんからね…」
佐藤
「それならそれで…
漱石を婿入り養子に迎えりゃ良かったんじゃないか…」
伊島
「それはそれで…
ばつが悪い気がしますけどね…」