舟編みの人~第24話・終わりにしたくない関係~
朝倉
「久しぶりにあるチェーン店に寄ったのだけど…
流石に…あの看板のセリフは違うと思うんだけど…どうだ…」
伊島
「写真とかあります?」
朝倉
「これなんだが…
『毎度、ご来店ありがとうございました。』って書いてあるのだけど…
文末の3文字で…
それまでに書いてある事が台無しになってやしないか?」
伊島
「川柳先生が食いつきそうなネタですよね…」
朝倉
「どこかから嗅ぎつけてきて高笑いしそうなのが怖いなぁ…」
伊島
「短くまとめるつもりなら…
『またのご来店をお待ちしております。』
みたいな感じで書くべきでしょうね…」
朝倉
「物事がおかしくなる時って…
こうした言い回しとかに表れてしまうんじゃないかなと思う。
活字にする時は本当に注意しなければいけない。」
伊島
「店員がいくら頑張っていても…
看板のセリフが邪魔してしまってますよね…」
朝倉
「多分…
こんな感じで書きたかったと思うんだ…
『本日はご来店ありがとうございました。
またのお越しをお待ちしております。』と…」
伊島
「看板の文字数制限もあるから、
簡潔に感謝を伝えたいのは分かる気はします。」
朝倉
「その気持ちがあっても…
前の文章と嚙み合っていなければ却って無礼な言葉になってしまう。
それは気を付けておかないとな…」
伊島
「出来得るなら再来店を期待する一言も添えておきたいところですよね。」
朝倉
「一期一会も悪くはないが、
また会いたいと思わせる存在でありたいものだ。」
伊島
「武道や芸道でも残心というものがありますが…
もしかしたら…
接客業にも…そうしたものがあるのかもしれないですね。」
朝倉
「大切なものを自分の心だけでなく、
相手の心にも良いものを遺せるようにしたいものだ。」
伊島
「私も漱石さんの心に残る様な存在になりたいですね。
仕事だけじゃなくて…」
朝倉
「上役じゃないから…誤解を恐れずに聞くが…
それはプロポーズと受け取っていいんだな…」
伊島
「そうですよ。出来れば漱石さんから言って欲しかったですけどね。」
朝倉
「まあ…こんなヘタレな俺だが…これからも公私ともどもよろしくな…」