舟編みの人~第23話・名は体を表す~
佐藤
「朝倉…この頃…調子はどうだ?」
朝倉
「佐藤か…五月蠅い奴が来たものだな…」
佐藤
「久しぶりとは言え、随分な挨拶だな。」
朝倉
「おおよそ、察しは付くが…差し詰め…伊島との事を冷やかしにでも来たのだろ?」
佐藤
「もののついでに聞こうと思っていたけれど、
聞く手間が省けたな。」
朝倉
「別に俺にとっては可愛い後輩だよ。」
佐藤
「釣れない反応だな。
まさか向こうさんの気持ちに気付いていない訳でもあるまいに…」
朝倉
「少なくともこっちから言う訳にはいかないのだよ。」
佐藤
「少なくとも俺たちの時代は社内恋愛は一般的じゃなかったからなぁ。」
朝倉
「まるで俺たちの時代は終わったかなと言いたそうな口ぶりだよな。」
佐藤
「まあ…少なくとも俺の時代じゃなくなった事だけは確かだ。」
朝倉
「前々から聞こうと思っていた事だが…
伊島を川柳担当から追い出した理由はなんだ?」
佐藤
「あいつは人の思いに対して純粋に取り組み過ぎなんだよ…
だから…
川柳の世界には合わないと思った…
川柳ってのは世の中をどこか斜に眺める様な偏屈さがないと…
面白味が出ないんだよ…」
朝倉
「お前がなんの捻りもなく、川柳一直線なのが笑えてくるな…」
佐藤
「川柳好きの親父に名前を付けられたんじゃあ…
仕様がねえだろ…
それに二代続けて…
この会社には世話になっているんだ…
選択肢はあってないようなものだろ…」
朝倉
「別に他の会社の選択肢も普通にあっただろうに…」
佐藤
「この名前のせいで…他の会社からは門前払いなんだよ…
でもな…案外…今じゃ…この名前気に入っているんだよ。」
朝倉
「これがコネ入社だとはっきり分かるくらいに…
入社当初は荒れていたもんな…」
佐藤
「昔の話題をわざわざ引っ張り出すなって…」
朝倉
「お前も…ようやっと自分の名前が馴染んできたみたいだな…」
佐藤
「俺は噺家じゃないんだ。
高座名みたいに言うなよ…
それを言うならお互い様だろうが…」