怪説~モノノケガタリ~第2話
沙彦
「ことほぎ…寿ぎ…言祝ぎ…言解き奉る」
惟嶺
「力が抜ける…」
響子
「待っててくださいね…
今…
妖をこちらに移し替えますから…」
沙彦
「くれぐれも乗っ取られるんじゃないぞ…
ただでさえ…
妖と共鳴しやすくなってるんだからな…」
惟嶺
「く…
言われずとも…」
響子
「のろい…
まじない…
対なるものよ…
汝が真名を我に言い指し示したまえ!」
虚
「ガルー」
沙彦
「どうやら今回も…
お目当ての奴とは違うみたいだな…」
〈ヒュン…〉
沙彦
「かなカナ仮名…
我…
汝に名を与え使役するものなり!」
「九十九虚(つくもうつろ)よ
我が形代に御霊とし宿り力なれ…」
「そなたの一縷の望み叶えて魅せん…」
虚
「済まぬ…
常世へ帰り申したい…
現世で我が身姿を留めるのも…
もはや叶わぬのだな…」
沙彦
「残念ながら…
そなたの本来還るべき現身は…
とうに朽ち果てておる…」
響子
「我…
今一度…
汝に真名を問う…
還るべき地を指し示し…
汝を彼の地へ誘わん…」
惟嶺
「まだ…
型が付きませんか…」
沙彦
「本来ならば…
少しでも所縁のある地に…
仮宿をお造り申したいのだが…
何せ先立つものがなくてな…」
虚
「嘗ては我が名を呼び…
畏れ敬うものもあったが…
その依り代を失えば他愛ない事…
朧気に意識に上るのは海辺の景色かの…」
沙彦
「今年は…
海辺の町も被害を受けた社も少なくはない…
それも無理からぬ事…
同時に力が及ばなかった事…
申し訳なく存じます…」
「さすれば…
我の心当たりを申す故…
どうにか辿ってくだされ…」
虚
「ご厚情痛み入る…」
沙彦
「能登…
越前…
越中…」
虚が激しく身を揺らす…
沙彦
「越中と言う事は…
富山か…
昔の名で辿って反応したとなれば…
子細は単純ではあるまい…
事の起こりは人災だな…」
惟嶺
「恋しや小石や恋しゃ慕う…」
響子
「乗っ取られていると言うか…
単に目的が一致して共鳴しているだけのようにも…」
沙彦
「互いに己の名を忘れる程に恋をした同志か…
辺り構わず引き寄せている訳でもなさそうだな…
越中にも廓話や恋物語は数知れず…
試しに…
おわら節でも歌ってやるがいい…」
響子
「では…
ひと節」
「雁がねの
翼ほしいや
海山超えて
妾しゃ逢いたい~
人がある」
惟嶺
「春風吹こうが
秋風吹こうが
おわらの恋風
身に付いてならない」
沙彦
「そなた…
高野聖をしながら薬売りでもしておったんだろ…」
虚
「何故…
それを…」
沙彦
「それでは…
名は有って無い様なもの…
真名を問うても響かぬ訳だ…」