怪説~モノノケガタリ~第3話
虚
「どうせ私ゃ根無し草…
恋うた相手に袖にもされりゃ…
宛所失くして流離うばかり…」
沙彦
「名を問う…
人問う悲しみは…
積もる雪かと見紛うものだ…」
惟嶺
「友が等に綽名された呼び名が愛しくて…
旧き名ぞは捨ててしまった…」
虚
「あらぬ人に惚れてしもたが為に…
この身姿が恨めしい…
この世の契りが叶わぬならば…
せめて常世の誓いをせんとや…」
響子
「愛しき人へと…
駆けんとすなら…
千里万里の対の名を授(さずく)ゆえ…
その名の力と共に行くが良い…」
沙彦
「真名仮名綽名…
思い紡ぎし名なれこそ…
思い思われ人もとへ…
馳せ参ずるとするがよい…」
虚 改め 千里
「この名もち…
愛しき人の下にでも馳せ参じてや…
その形見もて常世へと…
終の旅路と洒落こもうかえ…」
惟嶺
「この身を共にした身なれこそ…
名残り惜しゅうはございまするが…
早く思い人の下へ行ってやるがいい…
便りがないのが良い知らせと思う故…
こんな所へ戻ってくるでないぞ…」
………
沙彦
「例え同志と雖も…
所詮…
異界の棲み人…
少々…
入れ込み過ぎだ…
我らがいなかったらどうしてたんだ…」
惟嶺
「毒を食らわば皿までだ…
それに…
この身の内で思いを交わす内に…
何だか他人じゃなくなってきて…
放っておけなかったんだよ!」
響子
「千里殿と共鳴したのは…
同じ思いを抱く縁があった故…
乗っ取られたまま終いだったのかもしれないのですよ…」
惟嶺
「響子さんに心配してもらえるなんて…
嬉しくて涙が出てくらあ…」
響子
「仮にも同僚です。
いなくなったら寂しいですし…
何より仕事に差し支えますからね…」
惟嶺
「まあ…
それくらいでも…
今は構わないさ…
いきなり一番になれるなんて思っちゃいない…
それにまだこれからも縁が紡げるなら焦るつもりもないし…
そうした思いを育むのも乙なもんでさあ…」
沙彦
「まあ…
仕事の件もあるし…
取り敢えず…
成り行きに任せるか」
「じゃあ…
一段落だ…
引き上げるぞ…」
響子
「ですね…
お勤めご苦労様でした。」
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