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北海道が好きになったわけ⑦

アクの強い先輩達だったが、全員が族上がりではなく真面目にテニスに取り組んでいる人もいた。いや、というよりも元族の方々もテニスにはとても真面目に取り組んでいた。
と言っても、どう見ても高校生の頃は部活なんてしておらず、族活動に忙しく、タ◯コ吸ったり、なんならシ◯ナー吸ってそうな人達なので、決して凄く上手な訳では無い。けど、ダラダラしないで真剣にボールを追いかけていた。ポイントが決まると「ヨッシャ!」とガッツポーズ、決められると「クッソ〜」と大声出して天を仰ぐ。そう、とっても真面目にテニスを楽しんでいたのだった。たま〜にボディ目掛けてショットを打つときに「ウリャー!死ねやー!」とおよそテニスコートで聞くことのないセリフが飛び交ったりはしていましたが。

そんなテニス部の部長は「何でこんな弱々しそうな人が強面の揃った中で部長なの?」って思うくらい、ホッソリして常に体調悪そうで、小さな声で話すおとなしそうな村岡さんだった。現役で入ったそうで2浪の跡見さんの方が年上になるので「あの〜、跡見って呼んでいい?」ってワザワザ呼び捨てにしていいかどうか聞きにくるくらい繊細な人だった。
なのに、テニスはメチャクチャ強かった。ちゃんと大会に出たら、当時の北海道の大学生の中でも相当上位だったんじゃないかと思う。けどどうにも縁が無かったようで、最後の北海道大会も期待する皆んなに見送られて出かけたが、

「いや〜、遅刻しちゃってデフォ負けしちゃった〜。札幌ってやっぱり遠いんだよなぁ。でもせっかく札幌行ったし時間余ったんで◯ープ行って来ちゃった。てへっ」

てへっ、じゃねーすわ。ツルッとした顔で帰って来やがって。つーか、おとなしそうな顔してやっぱり他の先輩達と感性似てんのね。

それでも強かった。本気の試合は1度しか見たことがない。他の大学との対抗戦の時のことだ。
村岡さんが負けるところは見たことがなかったけど、この時の相手は全道大会でベスト8まで勝ち上がった実績のある選手。見るからにデカくて日に焼けていて胸板も厚くて、まるでラグビー選手のように筋肉モリモリ。僕たちは密かに「サモア1号」と呼んでいた。隣に並ぶとより貧弱に見える村岡さん。さすがに敵わないんじゃないかと思って観ていた。

呆気に取られた。プロの試合を観ているようだった。
サモア1号のバズーカのような剛球を細い腕をしならせて剃刀のようなキレのある球を打ち返す。1ゲーム目からグッタリしているように見えて、肝心な場面ではギアを上げて走る。サモアがド派手に一撃で決めると、村岡さんはコーナーをついて粘りながら決める。一進一退の攻防に敵味方なく誰もが固唾を飲んで集中していた。そして遂に迎えた村岡さんのマッチポイント。最後のパッシングショットがサモアの横を抜けて行った時、大歓声が起きた。観ていて疲れるほどアツイ闘いだった。やっぱり村岡さん凄い。

観ていた全員が感動していたに違いない。次の日から皆んなの目つきが変わった、ような気がしないでも無かった。


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