北海道が好きになったわけ15
僕らのアパートには風呂が無かったので、すぐ近くにあるお風呂屋さん「善徳湯」に通っていた。
テニス部が使わせてもらっていたテニスコートはこんな田舎の町営なのに何故かちゃんとしたナイター設備がついていたので、毎晩のように9時ギリギリまで練習していた。
でも「善徳湯」も9時で営業終了。そういう時は蓮ちゃんが粘りに粘って、茹で蛸のようになりながら僕らが風呂に来るのを待ってくれた。善徳のおばちゃんには申し訳なかったけど、町人の少ない中、集団で入りに来る僕らは上得意だったのか、あまり文句を言われた記憶がない。
先輩達はあまり善徳湯に入りに来なかった。
「いや、俺らはシャワーあるしさ。それに善徳って温泉なんだろ?タオル染まっちゃうからな〜」という人が多かった。
確かに、善徳湯で使った白いタオルは徐々に茶色く染まっていった。でも、普通の銭湯が温泉てありがたい。どんな効能があるのかは知らなかったけど、温まってよく寝られるし健康になってる気がした。
東京にいる頃、温泉と言えば伊豆や草津。北海道に温泉のイメージは無かった。ところが北海道に来てみると道内各地にとても素晴らしい温泉がたくさんあった。特に好きだったのは支笏湖の湖畔にある温泉で、露天風呂の向こうは湖なので人がいない時は湖で泳いでから露天風呂に戻る、なんて楽しみ方もできた。それと、今はNGのようだけど、当時は露天風呂に浸かりながらビールや日本酒を飲む事ができた。最高に気持ち良かった。
車を買ってからよく行くようになったのが、旭川と深川の間にあった高砂温泉。露天風呂のほか電気風呂や滑り台などもあって楽しかった。一度、冬にラムダ号で行った時、運転していた石田ちゃんが道を間違えて、うろうろしている間に右側後ろのタイヤが用水路のようなドブに脱輪。男4人だったから持ち上げればどうにかなると思い、「いっせいのせ!」で右後輪部を持ち上げて地面に降ろした途端、またしても石田ちゃんがサイドブレーキを掛け忘れていたせいで、右前輪が脱輪、はずみで手を離したら右後輪も再び脱輪し、車が右に傾いてドブに落ちそうになった。
真冬でマイナス15℃くらいの気温の中、呆然としていたけどそのまま呆然としていたら凍死するので、岩田ちゃんが助けを呼びに行く事になった。運が良いのか悪いのか分からないけど、脱輪したその場所はラブホの前。出入りする車の中のカップルは指差して笑うか顔を隠して通り過ぎた。中には助けようとしてくれたナイスガイもいたけど、彼女を待たせるのも申し訳ないし、なんか石鹸の香りにムカついて断っちゃった。
ようやく助けのサニー号が来てくれたのはそれから2時間後。待っていた僕たちは凍死寸前でしばらくガタガタと震えが止まらなかった。あれだけ震えが止まらなかったのは後にも先にもあの時だけだ。
そういえば、ある時、いつものように善徳湯に入って体を洗っていたら、急に蛇口からお湯が出なくなった。あれ?おかしいなと何回も蛇口を捻っていたらそのうち「ゴボッ、ゴボッ、ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ!」と変な音がして、ついには「ゴブッ!」と大きな音と共に茶色い錆の塊が蛇口から飛び出した。しぼらく茶色く濁ったお湯が出ていたがしばらく流していたら透明に戻った。
善徳湯の茶色は温泉の色ではなく、なんと!錆だったwww
まぁ、夜遅く行っても嫌な顔ひとつしないで入れてくれたし、鉄分豊富だからよしとするか。