現場録音雑考「ぶんぶんブームオペレーティング」
Twitter上にアップした事項を再編し、まとめてみました。
今回は、手振りでのガンマイクの指向性の扱い方
ご存知かもしれませんが、基本的にガンマイクは人物の口元に対して斜め上から45度の角度で向けるのが最良とされます。おおむねその認識で間違いはないです。
ただし、マイクの先端、指向性のスイートスポット(業界人はマイクの「面」と呼んでますので以下「面」)が、いつもその状態が最良かと言われるとそうではない場合があります。
上記を説明する為に、マイクの面を大きく4種に分けてお話しさせていただきます。あくまで業界用語なので正式な名前はありません。
まずは「シャープ」
基本ベースであり、前述した45度、あるいはそれ以上の鋭角で対象に向ける面です。声は前方上向に流れるので一番音圧があり、理に適った位置です。ここのセリフはガンマイクで成立させたい、ピンマイクがしんどい等の勝負時はこれです。
次に「フラット」
対象の口元やや前方の空間に対して、真下90度でマイクの面をとるやり方です。音圧はシャープに比べて劣りますが、芝居の動きにあわせやすく、難易度が最も低いので安定しやすいです。多少スイートスポットを外しても急激な劣化は避けられますので、正直一番使います。写真はちょっと突っ込みが足りてません。
正面からのシャープに対して「逆面」。
急に日本語。マイクの面を内側に折って振り手の方向に指向性が向く振り方。これは、立ち位置が無く、役者の真後ろからマイクを出さなければならない時に使います。カメラが役者を追いかける時や、芝居の目線に入りたくない時等、割とよくあるのでレアケースでもないです。ただし、自分の見た目とマイクの面の乖離が起きるので難易度は他の比ではないです。激ムズ。
最後に「アンダー」
フレームに対して下から対象に向けるマイクの面です。俯くお芝居があると、上から差すガンマイクでは指向性の範囲に捉えられなくなりますので、シンプルに下から差し込みます。トップからのライトがキツく、ガンマイクが寄せられない時にもよく使います。
正直これ以上は区分しても差がないので、この4種しかないという認識で大丈夫です。(厳密に言うとシャープと逆面は、被写体に対して同じ角度ですが)ではこれらをどういった判断基準で選択しているかについて連ねてゆきます。
理想位置は前方45度と前述しましたが、一刻一刻で変化する撮影現場において、ベストな位置にガンマイクがいけることは2-3割程度でしょう。それはカメラのワークであったり、鏡やガラスに映ってしまったり、ライトのシャドーでいけなかったり、マイクマンが立つ場所が無かったり、といった事が常時起こるからです。なので、何でもいいので口元に最も近い位置で向けられるマイクは何処かという思考から入ります。
例えば、道路を背にした演者のルーズウエストサイズのショットだったとして、上からのマイクが最も距離が近い状態とします。
この場合考えるのはノイズレベルです。
(余談ですが、フレームサイズを説明する時に業界人はマイクの長さで表現します。「役者の上ワンマイクまで降ろせる」とか、「余裕をみて2マイク分は上にあげて」言った具合に。基本的に演者の頭頂部から数えてます)
演者が、道路や室外機といったノイズを発生する物の近くで芝居する場合、マイクの面は出来る限りその方向を向かない様に配慮します。つまり前述した例だとシャープよりもフラットにした方が道路に向かないのでノイズが下がるということになります。微々たるものですが。
更にいうと、上から差すか、下から差すかでもノイズは変わります。
音の性質上、マイクは高ければ高いほど遠くのノイズまで拾ってしまいます。なので基本的にアンダーマイクの方がベースノイズを下げることができます。更に演者の体にきっちり寄せることで、体を遮蔽物としてノイズを下げるという荒技もあります。これは、手を動かす芝居や立ち上がる芝居等、演者の細かな動きを覚えておかないと秒で詰みになります。
例に出したシュチュエーションの場合、森永的判断だと、オーソドックスにいくなら
「演者の上ワンマイクでフラット」
という判断と、
「演者の体に寄せ気味で腰高アンダー」
という選択肢もあるということになります。物理的な距離で音圧を採るのが前者、ノイズレベルで考えるなら後者という二択を提示することになります。選択肢があれば、録音技師の判断も当然ながら変わってきます。
ここでブームオペレーターとして大事なのは、責任者である技師にプランを提示してクリエィティブな判断をあおぎ、よりイメージに近い素材やMAまで見越した素材を選んでもらう事で作品に貢献するというオフェンシブ部分。
そして、一刻で状況が変わってしまう現場で、複数プランを用意し、多少音の質は落ちても現場の進行を妨げずに済む方法を考えておくというディフェンシブな部分の両面を持っておかなければなりません。
各々の面のメリットデメリットをまとめると
(基本的にマイクは上から)
「シャープ」
基本の型であり、声の性質をとらえた理想的な位置
きっちり当てるとベースノイズに負けない音圧を稼ぐことも可
反面、面がボケると残念な音になる
角度がつく分、対象物の後ろのノイズを拾いやすい
マイクを動かすとベースノイズが大き変わるので環境把握が必要
「フラット」
基本の型その2。真下を向くのでベースノイズが変わりにくい
顔前の空間を狙うので、最も面があたりやすく派手にボケにくい
反面、シャープに比べてだいぶん音圧が劣る
足元を向くので、砂利など足元が五月蝿いと使いにくい
「逆面」
俳優部の背面から振るので、動線や目線を躱せる
役者についていく際は通った動線を追いかける形になるので障害物がない
手元が上がりきらず、フレームを躱わしにくい時に使用
面を当てるのが他の比ではないほど難しい(自分が思った所からマイク半本分前に持っていくと大体ちょうどいい)
「アンダー」
うつむきのセリフに特効が入る
ノイズレベルを下げやすい
ライトの影響を受けにくいので影が出にくい
故に引っ張り撮影等の動きのある画に対応しやすい
反面、俳優部の芝居動線や目線に入る上、カメラマンや周囲の動きの動線にも入る為、動きを正確に把握し予測していないと只の事故になる
片手で振らないと躱し切れない状況が多々ある
アンダーだけだとノイズバランスが悪いので上下で挟むのが理想
番外編として「滑らし」というものがあります。
ガンマイク一本の表現として、主たる演者を捉えつつも後ろのガヤも捉えたい時、シャープを更に鋭角にし手前と奥の両方の音を捉える面です。セリフがある場合はあまり使いません。
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