3年の病院実習(3)

ついに、私たちも手術室の実習に臨むことになった。

手術室横にある、ナースステーションに集合する。手術室の担当看護師がやってきた。すらっとした体型に鋭いまなざし。こちらに歩いてくる。
「よろしくおねがいします」と頭を下げる。

「とりあえず記録見せてくれる」
返事もしないままに記録を見せろという。素直に見せると、少々の時間見た直後
ビリビリビリビリ
記録を破り捨てた
「意味ないですね。文字を埋めるための文章ですね」とピシャリ。
静寂の時間。怖い。確かに怖い。

初日
白内障の手術見学。患者さんの誘導を担当。
正直、やいのいわれないので、西川さんと共にホッとしていた。
だが、翌日問題勃発
二日連続で記録を破られた上に
13時から胃がんの手術見学。
なんと参加することになったのだ。もちろん見学だが…。

手術が開始、さっそく執刀医から「学生さーんこっちこっち」と呼ばれる。
行くと「これが病巣(病気の中心)ね。」と教えてもらう。なるほどーと思っていたら

バターンという音と共に、西川さんが倒れた。

すぐに担当看護師が来て
「何してんだもー」と外へ連れ出した。血を見て意識を失ったのだそう

緊張マックスである。怖すぎる…。
そこに重ねて、担当看護師から「ガーゼ拾いをしなさい」
と指示が。

ガーゼ拾いとは
血液のついたガーゼを先生が地面に落とすので、そのガーゼを拾って測り、出血量を把握するというもの。

緊張マックスのなかでの測って記録。測って記録。
執刀医から「何グラムー?」と指示が。
改めて計算していると、担当看護師から「遅い!!何してんの!きかれたらすぐに答えんか!!!!!!」と怒号が飛ぶ。

〇〇グラムですと言うと
「やれるやないか」と初めて褒められた。ホッとする間もなくその作業が続く。実習時間終了を過ぎても続く手術。

気を抜くことが出来ない状態。それの繰り返し。最後に「終了」と主治医が手術終了を宣言し、初めてホッとできた。汗でびっしょりだった。

手術終了後、反省会「なぜ執刀医に病巣みせてもらってんの?医者になるんか?」と担当から詰められる。逆に聞きたいが、執刀医が好意でしてくれたことを「すいません。手術中の看護師の動きを学んでるので見れません」と言えばいいのか?言えるわけないじゃないか。腹いせなの?と思う。

西川さんには「あんた論外。血見て倒れるとか本当に看護師になりたいの?」と言われ泣いていた。

誰もいない控室に戻ったのは午後7時過ぎ。坂田先生が待ってくれていた。実習報告をする
「そうか、今日も記録破られたか。いかんねぇほんとに」と言った後

「グランスいいか。ここを乗り越えたら最強の看護師になれる。今の気持ち忘れちゃダメ」と励まされた。

帰り道、西川さんと帰る。西川さんは泣いていた。ずっと。かける言葉がないまま、駅でわかれた。

こうして、あの実習生も心がおられて辞めたんだな。そんな事を考えていたら、緊張感から解放されて、電車で寝ていた。起きたときには終点だった。

あと3日…やれるのか?という不安を抱えながらも、実習は続くのであった。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集