「1059」から始まる市外局番
私の父は、64歳でこの世を去った。平均寿命からいって、まだ早い。
会社を経営していた父は、社員に夢を与え、お客様に感動を与えたい。
いつもそう願っていた。
私は次男だが、経営には長男より向いているといって、私に継がせたかったようだ。
転職して父の会社に入った。社会経験の浅い私に、
「世の中は良いことも、悪いこともあるが、この世のことはこの世で解決で
きる」と言い、
経営者の息子だからといって、肩に力を入れて無理をするなと諭された。
父と一緒に働いたのは3年ほど。最後の一年は入退院を繰り返し、
私は経営についてほとんど学ぶ時間が無かった。
「俺の頭の中にはアイデアがあふれているのに」となげいて父は逝ってしまった。
「1059」テンゴク。語呂合わせだが、そんな市外局番があったら、
私は毎日電話して、いろいろなことを聞くに違いない。
父は、多分ファックスをいっぱい送ってくるに違いない。
いつもアイデアや夢を分かりやすく図解していたからだ。
時折、夢に出てくる父は、何も語らず笑顔でいる。
最近、母も父のもとへ旅立った。
毎日楽しい会話をしているのだろうか。
今日も、電話はかかってこない。