裏幼稚園

高二の時、友達「A」とアニメランドへ行った。

アニメランドは国道50号沿いにあるアダルト書店で、入り口付近には裏社会情報教えます...等のカルチャー系の本で2割。のれん奥のアダルトコーナーで8割といった構成の店だった。

Aは角刈りのデブで鼻は高いが目は細長。眉は全剃で鼻の下に薄く髭が生えている。今日のファッションはアロハシャツに短パンであった。彼はたまに痛い大学生みたいなテンションになる厄介な男で、今日も「裏モノを探す」と息巻いていた。普段から「俺、ロリコンだから」といらないタイミングで宣言するだけのことはある。

半ば呆れながら、店内のラックをぼんやり眺めていると

「これ見て」ドヤ顔のA。

「何だよこれ」

暗闇の中に3人の童顔な女性の顔だけが浮かんでいるパッケージ。

上部には

「裏幼稚園」

それ以外の情報はどこにも記されていない

何だかAの顔とDVDとのマリアージュに気分が悪くなった俺は、結局何も買わず店の車止めにしゃがみ込んでいた。Aの手には黒ビニールの手提げ。今思えば、その後DVDを一緒に鑑賞してよかったかもしれないが、彼は他人のテンションが自分のせいで下がることで、自分のテンションが上がる男だ。満足げな顔で、アダルト書店の駐車場でジョイマン高木のダンスを踊っていて。それも普通に気持ち悪かったし彼に以前、色々と引きずり回された記憶も蘇り、とにかく今日は離れたいという気持ちが強くなり、何とかその場で解散することができた。

週明け、教室に入り自分の席に座る。

机には裏幼稚園

まるで教材のような顔で鎮座している

隣の席のやつも話しかけないくらい異様なオーラを持っている。隣の席の同級生でも常に敬語を使う角田くん「え、何ですかこれ」って話しかけてきて欲しいわ。せめて誰かにいじって欲しいわ。そして女子の目はどうでもいい。うん。「男子無理ー」とか言いBLやジャニタレの話をするしょうもない連中だ。カルチャーの話をしろバカ。なるべく他のことを考え冷静になった俺はとりあえず物を通学カバンにしまう。

もちろん後でAに詰め寄ったのだが、とにかく中身を見てみろとしか言わない。自室のDVDプレイヤーに裏幼稚園が吸い込まれていく様を思い浮かべるとちょっと笑いそうになった。

外は夕刻、季節は春。心地よい空気が漂っているのに自室にこもって小さいテレビの前に座る。あの時Aのテンションが低かったのが気になったがとにかく見るしかない。案の定、DVDディスク自体にもめぼしい情報はなかった。

ただ可能性として一番大きいのは、裏幼稚園を巡るAVコント劇だろうな。そういったジャンルはあまり見ないし好きじゃない。Aもそうなんだろう。

そして映像がopもなく流れ出す。

アングルは高めの俯瞰位置で、豚の加工される様子が映っている。東南アジアの市場のみたいな空気感だ。粗めの画素に風のボウボウとした音がうるさい。

豚の屠殺場

あ、これ豚の屠殺場

海外の豚の屠殺場を見たのはもちろん初めてだった。とにかく停止ボタンを押す


AはグロいDVDを持ってくる

クラスの人たちは話が合わないしつまらないことで笑っている

母の信仰する新興宗教の集まりには行きたくない

今俺がはまっているthe Whoやフィッシュマンズのことなんてこの世界で誰も語らない


当時の俺はとにかく絶望しきっていて基本的にはちゃんと気の合う友達がいなかったのが大きな要因だったと思う。しかし今考えてみると田舎のアダルト書店に行き、裏物風のDVDを買い、豚の屠殺風景を鑑賞する。カルチャー雑誌に載っている短編漫画のようなストーリーだ。

くだらねえ青春!!










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