福島文二郎 『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』
僕にとってのこの本:
ミッションは、キャストにホスピタリティを身につけさせる。ミッションは先輩キャストにホスピタリティをもたらす。先輩キャストは後輩に、ホスピタリティをもってホスピタリティを伝える。もっとも重要なことは、笑顔。
気になったので読んでしまいました。ディズニーについては最近考えることがあったので(記事1 記事2)、当記事はその続編でもあります。
ディズニーのキャストには、コーチングに必要なコンピテンシーを感じた、というのがこの一連の考察のきっかけでした。
自分としては、今回この考察はなかなかおもしろいところに着地しました。本書のおかげです。
ディズニーには、先輩が後輩を教えていく確固たる仕組みがある。それ自体は、いわば人として当然のこと、というような、いわば道徳のようなものが多い。でも、それが徹底されている。
著者の福島文二郎氏は、ディズニーのジャングルクルーズのキャストから、ディズニーの人材育成システムの中で育ち、必要な場合にはそれを改善しながら、東京ディズニーリゾートの企画、研修畑で働きぬいた方です。言葉からは、ディズニーへの愛情のようなものがとても伝わります。
著者は、その人材育成システムは、アメリカのディニーランド開業のときから一貫している、という書き方をされていたと思います。それは1955年。ロサンゼルス。
そのシステムは、たぶん改善を重ねられ、東京リゾートでとくに独自の進化をとげたのでしょう。
CHAPER1 育てる前に教える側の「足場」を固める
CHAPER2 後輩との信頼関係を築く
CHAPER3 後輩のコミュニケーション能力を高める
CHAPER4 後輩のモチベーションを高める
CHAPER5 後輩の自立心・主体性を育てる
ディズニーの行動指針は、SCSEというそう。この行動指針が組織を貫いている。
Safety(安全)
Courtesy(礼儀正しさ)
Show(ショー)
Efficiency(効率)
本書を読んで思ったのは、この最優先にすべき行動指針がすみずみまでいきわたっている、ということでした。そしてそれは確かに、僕がディズニーシーを歩いたときに場に満ちていたものでした。
この最優先の御題目であるSCSEにつながる目標がいくつも設定され、その目標はそれぞれの部署でちがう。「オンステージ」の「キャスト」ごとでもちがうし、バックエンドのスタッフたちでも、幹部でもことなる。でもみなこのSCSEを共有している。
このことが、9割のアルバイトスタッフのひとりひとりにも浸透している、そういうことなのだと思います。
いくつもの工夫があることもわかりました。部署毎にエンゲージメントを高める工夫の余地が残されており、たとえば著者は「カストーディアル」と呼ばれる、「きつい、きたない」の2K職場(本書の記述です)の概念を変えることにも成功しました。カストーディアルたちの仕事への認識をかえ、職務内容に「やりがい」をもたらすような新しい解釈を与えたようです。
さて、僕はいま、コーチングの勉強中であり、本書もそのためによみました。そうすると、見逃せないものがあって、それは、本書がコーチングに言及している部分です。
ディズニーの先輩職員(アルバイトでも正規職員でも、この人たちのことはトレーナーと呼ばれ、一目置かれます)は、後輩に「カウンセリング的態度」で接するか、「コーチング的態度」で接するか、場合によって使い分けるスキルを持っている、という話でした。
しかし、本書内には、本当にささいなところですが、トレーナーは、後輩キャストに対して立場が上である、との記述がはっきりとあります。
先輩トレーナーは、年齢や他の何かの属性に限らず、SCSEをもたらす力がある、という点において、後輩を主導する。
もちろんそうだとは思う。ただ、僕がいまコーチングの勉強で掴んでいることとして、コーチは、クライアントとは対等な関係である、ということはとても大事なポイントだと教わっています。
ディズニーの先輩トレーナーが後輩に行うのは、おそらくティーチング、なのではないか。もちろん、トレーナーの中にネイティブコーチがいる可能性は当然あるのだけれども。
ディズニーのトレーナー・後輩キャストの関係は、コーチ・クライアントの関係とはやはり別物のようです。おそらく、彼らはカウンセリングマインドを有するティーチャー達、ということなのかな。
そして、妙に納得もするのです。そうでなければ、あのディズニーリゾートの空気は、作れないと思う。あれは、一種の強い規律を、強い意志で守る集団、なのだと思う。どちらかといえば、やっぱり誤解を恐れずにいえば、上位下達、体育会系、そういう言葉を連想してしまう。
いたずらに批判をしようという意図はありません。私がそこで感動を覚えたのは事実だし、私がいま勤めている組織がそれをできるかといえば、まず無理だから。
ただ、キャスト達がコーチングをできるのか、やっているのか、そういう疑問に対しての答えとしては、もしかしたら、こうかもしれません。
キャスト達は、コーチングのコンピテンシーの一部を備えているものの、柔軟な方法でティーチングをメインに行う集団である。無数の小さなコーチングの連続によってボトムから自然と築き上げられた職場、というものではないのかもしれません。
そして、上記のミステリーショッパーの調査によって、部署毎にポイントが高いものから順にチェック項目を洗い出してランキング化する。そうすると、バックステージでもキャスト間の人間関係が良好である場合には、上位の5つの項目は大体どこの部署でも同じになるとのこと。
ミステリーショッパーがお忍びで見ているとき、この①〜③が高い。
それって、奇跡のようなことだな、と思います。
著書は、2010年出版でした。