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伊藤守 『3分間コーチ』
僕にとってのこの本:
まずは3分間の時間を、人のためにとること。話す内容は、そのあとでもいい。部下がコーチを求めるときに、コーチとして声をかけること。「セルフトーク」としてその人の中に、コーチの声は流れ続ける。人がコーチを求めるのは、仕事の開始時。
副題は、「ひとりでも部下のいる人のための世界一シンプルなマネジメント術」。
この本のことは、コーチ・エィのアカデミアのテキストの参考文献で知りました。まだ日本にコーチングが浸透していなかった1990年代後半、著者の伊藤守氏は、アメリカでのコーチングの成長をみて日本に導入したパイオニアだったそうです。
本書は国内外でベストセラーでロングセラー。こうした本がよく売れること自体、コーチングの世間的注目度が高いということなのでしょうか。それに、多くの人が「時間がない」ことで悩んでいるってことでもあるのでしょう。本書は、本来ゆっくりと時間をとって行う(1セッション30分くらいが多いみたい)コーチングセッションを、3分間で行うということを提唱するものだから。
この3分間コーチの源流は、伊藤氏が起こしたコーチングの会社内での出来事をもとにしているとのこと。朝礼後に5分間、社員がお互いをコーチするということをやってみて、成果があったということがヒントになったようです。
今日やる仕事の内容を、自分の言葉ではなす機会がある、ただそれだけのことで仕事の質も量も増大しました。その結果、会社全体のパフォーマンスは、目に見えて上がっていきました。
人に自分のやっていることを、話せるようになるためには、自分がそれについて十分理解していなければなりません。話すことを通して、自分の業務についての理解も、自然と深まったからなのでしょう。
以下は自分の言葉で印象的な部分をまとめてみました。
・部下はいくつものフェーズでコーチを求める。
仕事の開始、途中、まとめ、昇格など。
・マネージャーが仕事を覚えて馴染むには、18ヶ月かかる。
・セルフトークは、3分間コーチのあと、ずっと続く。3分間コーチのねらいは、この部分にもある。
・コミュニケーションとは、相手に要望を出すこと。
・気の利いたことを言わなくていい。終わり方も、続きは「また明日」でじゅうぶん。
・何かあったらいつでも聞いてね、では聞けない。部下が質問できるようにするのが上司の仕事。
・少し先の未来を見せる。
コーチングの一形態として、3分間コーチングはコーチ・エィのアカデミアのテキストにも登場します。それは身につけるべきスキルということにもなっています。
確かに、その価値を感じます。本来コーチングは時間をとって相手の了解をとって、相手との信頼関係を作りながら、ゆっくりとすすめていくもの。この3分間コーチングは、そのすべてを同時にすすめていくもの、という印象を受けました。ただし回数が多いのかな。はやい、展開が。
忙しい人にはもってこいだし、マネージャーや管理をはじめた人にとっても有用なスキルだと思いました。
ただ、3分間という時間が強烈に定められているだけで、営みそのものはコーチングのテキストや、こちらの教科書的な本に書いてある通りのものだという印象も持ちました。
3分間という制限のために、コーチングというセッションを作り替えたもの、というものではないようです。コーチングというセッションには、もともとそうした時間の枠にとらわれないような、柔軟性が内包されているのかもしれません。