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自分史上に残る誇らしい仕事。

急に仕事の話しをしたくなった。

私はひとつの職場にわりと長く勤めるタイプで、やむを得ない事情がない限り転職することがない。

一番長く籍を置いた仕事は、トータル20年を越えていた。
長女と次女の妊娠中も、出産の2週間前まで
フルタイムで勤めた。

その職場では、20代前半から職場の中心的な位置を持つ数名のうちの一人だった。
製造、小売りが日常の仕事だけど、
人事に携わることもあったし、教育する立場もあったので研修のために主に大阪に出張もしていた。

初めは慣れない新幹線での出張に神経を
使い、月に2回も生理がきたり…と体調にまで
影響していた。
ところが、それに慣れてくると、
新幹線に駆け込み乗車し、
会社持ちなのを良いことに新幹線の車内販売で1000円もするサンドイッチを毎回楽しみにする程の図太さを持った。

出張先の大阪には本社があり、研修センターも構えていて、泊まり込みだった。
毎回講師を招いての接客の講習を受け、
ロールプレイング研修などもやった。

かなりハードなスケジュールだったけど、
最終日には大阪の繁華街に連れて行ってもらい「接客研修の一環」として食事をご馳走になったり、
全国各地から集まった指導者と仲良くなれたり、とても貴重な経験をさせてもらえた。

出張のたびに東京駅で「神戸プリン」と、
おそらく当時、発売して間もない
「東京ばな奈」を買って帰るのも楽しみだった。

東京本社は、池袋サンシャイン60内の
ワンフロアだった。

毎年、年末が近づくとお楽しみなことがあった。
年間売上上位であり、QSCコンクール(クオリティ、サービス、クリンリネス)上位の店舗だけがメトロポリタンホテルでの表彰式と
パーティーに招待される。
私のいた店舗は授賞式の常連店舗であり、
私個人としては、S(サービス)のカテゴリーで接客部門全国3位を受賞したこともあった。
このパーティーはとても華やかだった。

ここで初めて「フカヒレ」を口にした。
細くほぐされたフカヒレと、えのき、溶き卵で綺麗に仕上げられたとろみがかったスーブだった。
美味しかった。…でも、正直言うと、これはフカヒレなのか?えのきなのか?
それほど違いのない食感だった。
そのため、これ以降もフカヒレに特別な魅力は感じていない。

ただ、キラキラ輝く大きなシャンデリアの下でいつもより着飾って楽しく過ごす夜は
とても魅力的だった。

…こんな風に書くと、自分がオフィス街をカツカツとヒールの踵を鳴らしてバリバリバリバリ働くカッコいい女性のように感じる。

実際は、バブル期のなんだかリッチな世の中と、20代前半の田舎の女子が、
キラキラの大阪の街や、非日常の眩しい空間に招いてもらって浮かれてキャッキャッしていただけな気もするんだけど💦

しかし、若い頃のこの経験のおかげで、
今の職場でも私は接客のプロという気持ちを持つことができている。

「お金を払って食べ物を手に入れるだけなら、このお店でなくてもいい。『ここが良い』そう思って頂くために、接客という仕事でお客様に何をお届けできるか。」

これは私の接客のテーマであり、基本になっている。



当時の日々の仕事は、その日の売上目標に
合わせて仕込みから製造までをある程度計算して準備する。
ある程度の仕込みを終わらせ、開店し、
製造、そして接客。

大きな釜で一日中何度もご飯を炊き、
直径60cmくらいのヒノキでできた
巨大な桶に炊きたてのごはんを一気にあげ、そこに
独自の醸造酢をボウル一杯ジャバジャバと
かける。ダマにならないように、これまた
大きな木製のしゃもじ(宮島という)で
まんべんなく、手早く切るように混ぜ、
桶に平らに成らす。
熱々のごはんに酢が合わさるとモウモウと
した酸味の強い蒸気があがる。
経験を続けるとむせ返ることもなくなるから不思議。
5分おきに上下を反転させること4回。
最後に10分自然放熱すると、
米一粒一粒が立って、ツヤツヤピカピカ。
その後、熟成させると
程よい酸味に甘味が加わり最高の味になる。

ブロック状態のマグロを『やなぎ刃包丁』で
柵状に切り分け、そこからお刺身の状態に
する。スジの入りかたを見極め、
噛みきれないことがないよう丁寧に。

ロール状のイカはボイルした後、水で冷し、
柵状に切り分け、皮を剥く。
ブラックタイガーは背わたを取り、一尾ずつ真っ直ぐにしながら専用の型に並べる。
ボイルすると、黒みがかった生海老が
綺麗なオレンジ色になる。
流水で十分冷ましたら頭を取り、殻を剥く。
尻尾を残して腹側を開き、酢水で洗い水気をきる。

…ここまで書いておきながら、キリがないことに気づいた。

漁師の身内のように、毎日海鮮と向き合ってきた。
貝類の中わたを綺麗に取ったり、
鯖を酢で〆たり、
甘エビの美しいエメラルドグリーンの卵を
取ったり、
イクラを調味液に浸けたり…

仕込みは全て自分たちの手でやっていた。


そう。私は寿司職人であった。


今は仕込み済みのネタを発注し、
舎利を作るのも、炊けたごはんをロボットに入れてボタンを押せば出来上がる。
握りもロボットにおまかせすれば決まった
重量の舎利玉ができあがる。

私が仕事を初めて10年弱の間は、
握りも全て、手握りだったので、チェーン店でありながらも技術は必要だった。

手のひらの上側1/3と指を使い、
手首のスナップもきかせ、
丁度良い手加減を身につける。
握りしめてはダメだし、優しすぎてもダメ。絶妙な力加減で、キュッキュッと転がす。
すると、外側はまとまっているのに、
割ってみると中はホロホロと崩れる
一番美味しい舎利玉になる。
寿司は、とても繊細。
自慢の舎利にネタが合わさった時の
バランス。
う~ん。堪らない。

言い出せばキリがないほどの
こだわりを持ち、
自分の担う仕事は全て把握していた。
自分の仕事に自信があった。
それが今になってもとても誇らしい。

便利すぎない世の中もやっぱり良かったな。と思う。
おかげで、寿司に関する技術を身につけられた。
恵方巻きも、ひな祭りのちらし寿司も、
お弁当のおいなりさんも、すぐ作れるしね。

長年かけて身につけた実績は、
その職を離れた今でもやれる自信がある。

本当に忙しくてクタクタで諸々辛いことも
あったけど、何ものにも代えがたい経験を
自分の人生に残せて良かったな。


いつか、noteの仲間で集まって、
寿司パーティーができたらいいな。

「はいっ!いらっしゃいませ♪
ご注文どうぞ!」

大喜びで握ります🍣♪



※今の仕事は接客メインで週に2日3日働くことができています。仕事は、私が私だけで
活動できる貴重な場所。とても大事。
なので、
接客はもちろん、スタッフとの関わりも含めて、私から気持ち良いエネルギーを感じてもらえるよう心掛けているのです( ´∀`)
デジタルの疎さはnoteでも職場でも変わりませんので、「だれかー!」と頼りながらですけどね(*´Д`*)




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