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【作品#60】『ミス・サンシャイン』
こんにちは、三太です。
2月最終週となりました。
毎年思うことですが、2月は本当にあっという間に過ぎていきます。
ここからはいよいよ卒業に向けてまっしぐらのシーズンです。
中3生が良い卒業を迎えられるようみんなで準備をしていきたいと思います。
では、今回は『ミス・サンシャイン』を読んでいきます。
初出年は2022年(1月)です。
文藝春秋の単行本『ミス・サンシャイン』で読みました。
あらすじ
岡田一心という大学院生が語り手です。
ゼミの先生に紹介されたバイトは昭和の大女優、和楽京子(石田鈴)の家の荷物整理でした。
そのバイトをしながら、一心は和楽京子の女優人生や長崎での過去を知ったり、カフェで働いている桃ちゃんに恋をしたりしていきます。
主に鈴との関わり、桃ちゃんとの関わりが同時進行で進みます。
一心と鈴はともに、長崎出身で長崎に落とされた原爆がストーリーにもじわじわと影響を与えてきます。
「ミス・サンシャイン」とは和楽京子の全米デビュー時のキャッチフレーズであり、同時に被爆者である鈴を米国社会が揶揄する言葉でもありました。
公式HPの紹介文も載せておきます。
僕が恋したのは、美しい80代の女性でした…。大学院生の岡田一心は、伝説の映画女優「和楽京子」こと、鈴さんの家に通って、荷物整理のアルバイトをするようになった。鈴さんは一心と同じ長崎出身で、かつてはハリウッドでも活躍していた銀幕のスターだった。せつない恋に溺れていた一心は、いまは静かに暮らしている鈴さんとの交流によって、大切なものに触れる。まったく新しい優しさの物語。
出てくる映画(ページ数)
①「東京物語」(p.40)
長崎から上京したばかりのころ、新宿の名画座で初めて一人で映画を観た。たまたま上映していたのが小津安二郎の『東京物語』だった。
→一心が仕事(一流企業)を辞めていたときに思い出した映画
②「欲望という名の電車」
③「波止場」
④「イヴの総て」(p.76)
「だから、ワッてその場の空気が熱くなるっていうか、とにかくあなた、『欲望という名の電車』でしょ。『波止場』でしょ。それに『イヴの総て』。あたしたち、ぜんぶ、観てたもの。それこそ、戦後のなんにもないときに、同じ世界とは思えないような銀幕の向こうの景色を観てたんだもの。・・・」
⑤「風と共に去りぬ」
日本人初のノミネートであったことはもちろん、万が一オスカーを手にするこtになれば、有色人種としては一九四〇年に『風と共に去りぬ』のメイド役で、黒人初のオスカー受賞者となったハティ・マクダニエル以来の快挙となる。
「なんという映画だったか、和楽さん、覚えてらっしゃる?」
「ええ、もちろん。『風と共に去りぬ』でしたわ。あの映画を撮影所の暗い試写室で観せてもらいましたの。・・・」
⑥「麻雀放浪記」(p.131)
実は、大学のころ一心は雀荘に入り浸っていた時期がある。最初はオンラインゲームから入ったのだが、『麻雀放浪記』という映画に影響されて雀荘に通うようになった。
今回は6作ありました。
「麻雀放浪記」は「Water」にも出てきたので、それ以外の5作を見ていきます。
感想
和楽京子が映画で活躍した女優ということをはじめ、映画に深く関わる作品でした。
その部分で虚実入り乱れており、何が本当で、何が作り話かを調べながら読むのが面白かったです。(和楽京子の出演したとされる様々な映画が出てきますが、いずれもフィクションです。けれども、時々原節子やソフィア・ローレンなど本当にいた女優なども登場します)
吉田修一さんの映画好きな一面が滲み出ているなと思いました。
「ひまわり」などを見ていたので、ソフィア・ローレンと和楽京子が肉体派女優という点でつながるなあと思っていたら、そのソフィア・ローレンの名前が小説の中に出てきて、けっこう驚きました。(p.124)
また、長崎の戦後にも向き合った作品だと思いました。
一心も鈴もともに長崎出身という設定です。
そして、鈴は被爆体験をしていました。
そのことで女優として苦しい思いもしますし、何より親友の佳乃子を原爆症による白血病で亡くします。
また、鈴が好きだった男性、宝生満男との縁談は長崎で被爆をしていたということで流れてしまいます。
長崎の人たち(それは広島の人たちにも共通するかもしれませんが)が背負ったものが正面から描かれているように感じました。
佳乃子を亡くした体験は一心が妹の一愛(当時、9歳)を亡くした体験にもつながります。
二人とも亡くなる前に「自分の人生は幸せだったと思ってほしい(かわいそうだとは思ってほしくない)」というようなことを言って亡くなります。
最後に、一心と桃ちゃんがドライブデートをするシーンが出てくるのですが、その場所は軽井沢です。
この軽井沢、吉田修一作品で何度か出てきています。
少なくとも、パッと思いつくだけで『怒り』と『太陽は動かない』に出ていた気がします。
今は映画にこだわって吉田修一作品を読んでいますが、次は場所にこだわって読んでみるのも面白いなと感じました。
春立つや戦後を生きた映画女優
以上で、『ミス・サンシャイン』の紹介は終わります。
映画が深く関わるという意味でも、とても興味深い作品でした。
それでは、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。