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学生さんですか?社会人ですか?お仕事は何されてるんですか?今日はお休みですか?
何年も前の話だけど、ヘアカラーを赤みのある色にしたくて美容室に行った。
少しでも安くしたかったのと、新しい美容室を探すついでに、いつもと違う美容室を予約した。
ご夫婦で経営されている美容室で、席数は少なめ。
予約当日に行ってみると、男性美容師の方が担当となった。
美容室を変えることのデメリットというか、面倒な所として、美容師とする会話で一から自分のことを話す必要が出てくるという面倒くささが少なからずある。少なくとも私はそう。
今は会話しないというのも選択できるから一概には言えないが、私は細かく注文をつけたり、ちょっと違うなって思ったらはっきり言いたいみたいな人間なので、最低限の会話はする。
普段から少しの会話をしていれば何でも言いやすいから。
今回は初回なので、まずはまた私の基本情報に関する会話かな。
そう思いつつ席に着いて待つ。
「アヴリル・ラヴィーンとか好きな感じっすか?」
私はこの美容師のことを今でも覚えている。
いや、この美容師のことは顔も名前も覚えていないが、この一言だけははっきりと覚えているというのが正しい。
「ゑ???」
思わず「は?」と言わなかっただけまだマシだったように思う。
今どきの猫ミームで言うなら、あの「は??」の猫の顔だ。
「え?」ではなく「ゑ?」
「そなた…いきなり何を言っておる?」そんな感じ。
恐らく赤みの強いカラーをお願いしたことにより、
彼はアヴリル・ラヴィーンとかロックっぽいの好きなんだろうなと、そう予想して会話の切り口として言ってきたんだろう。特に深い意味などない。何となくそうかなってことは分かる。
ただ、私は初めてきた美容室で、この美容師とまだほぼ会話しておらず、さぁこっからコミュニケーションのスタートって時に挨拶もそこそこにいきなりそう言われたのだ。
ちなみに私はアヴリル・ラヴィーンが好きである。曲もMVもよく聴いていたし、見ていた。
でも今回のヘアカラーとは全く関係がない。
アヴリル・ラヴィーン以外にも洋楽アーティストは居たし、奇抜なヘアカラーのアーティストは多く存在していて、そのころ、他にも流行りのそういうアーティストは居た。
別にここからおもしろいオチがあったとか、
会話が広がったとかそういうことも全くない。
私は彼を馬鹿にしているとか、美容師を馬鹿にしているとかそういうのは全くない。
腹が立ったわけでもない。
そこだけは正しく伝わってほしい。
しかし、前後の記憶ももうないが、
何年経ってもこの出来事を忘れていない。
インパクトがあったからなのかもしれない。
「学生さんですか?社会人の方ですか?」
「今日はお休みですか?お仕事は何をされていますか?」
初回美容室の会話はそういう風に基本情報の会話をスタートさせるものだと思っていた。
私の美容室を変えることへの面倒くささ。
これまでの美容室でほぼ必ず通ってきたコミュニケーション。
あまり良い感じのしなかったところというのは、それだけでいつまでも覚えていたりするものなんだけれど、この美容師の事だけはその一言だけを覚えている。
今までにないタイプだったので覚えているのかもしれない。
私の固定概念が、予想だにしない人物により打ち砕かれたような。
今ここにこうして書き出すことによって「あぁ、だからずっと覚えてるのかなぁ」なんて思えてきた。
この一言だけは何年経っても忘れられないっていうの、みんなそれぞれ一つくらいはあるんじゃないでしょうか。(良くない思い出の一言であれば思い出す必要はないけれど)
ちなみに、この美容室にはこれっきり訪れていない。
なので彼が発したこの一言、真意は迷宮入りです。