人は二度死に、生きる
一人暮らしの部屋で、いつものように起きる。
いつものように少し長くなってきた髪を結わえる。
今日もいつものように、見つめるのはテレビ画面、聴くのはスマホ、話しかけるのは部屋の観葉植物。
子供の頃には、ささやかだけど沢山の夢があったように思う。
少し大きくなってからは、流行りの服やメイク、可愛い小物なんかも好きだったし、ヘアスタイルには、毎朝信じられないくらいの時間を掛けていた。
二十代半ばで好きな人と結婚して、子供は二人産んで、平凡で温かな家庭を築くと思っていた。
でも、実際は。
ツヤを失って白髪も目立つようになってきた髪は、邪魔にならないようにただ結わえるだけ。
近所のコンビニに行く程度の日は、一日ノーメイクのまま過ごすことが普通になった。
いくつか恋愛を経験したはずなのに、同級生では孫がいる人も珍しくない年齢になった今、一人は楽だと嘯(うそぶ)いて生きている。
部屋に飾ったオンシジウムが、暖房の乾いた風に吹かれて、一つまた一つと花を落とす。
まるで、私みたい。
そう言えば、花好きにしてくれたのは大好きな祖母だった。
祖母が手入れする庭には、一年中、何かしら花が咲いていた。
亡くなって十年以上経っているが、祖母の好きだった花は思い出せるし、祖母の優しい言葉も覚えている。
人は二度死ぬ、という言葉がある。
一度目は肉体が亡くなった時、二度目はその人のことを覚えている人が誰もいなくなった時らしい。
祖母は、私の中でずっと生きている。
年を重ねても尚、希死念慮に飲み込まれそうになっている私には、いつ「終わり」が来るのだろう。
パラレルワールドにいる私は、望みをすべて叶えて、信じられないくらいに幸せに生きているのだろうか?
もう一人の自分に憎しみさえ感じる。
時々聞く、「年齢なんて関係ない」という言葉も、年若い者から年老いた者への、慰めの言葉にしか感じない。
今日は、いい天気になるのかな?
お買い物して、最近聞いた風水のアドバイスを参考に、お掃除したり新しい花を生けてみようかな?
なんだか自分のことが可笑しくて、少し笑う。
どうやら私は、今日も明日も明後日も、この世界線の中で生きて行くらしい。