繋がる海

気の早い鈴虫の声が残る、夜明け前。
閉め切った部屋に胸に、かすかに大型船の汽笛が届く。
会いたい、会ってみたい。
薄明かりの下、訊いていた地名を頼りに地図を検索する。
液晶画面にパッと、あなたの住む町が表示される。
昔々、祖母が口ずさんでいた歌が作られたその場所は、半日がかりの旅路。
未だに遠い場所。

あの子はあなたの近くに住んでいて。
その子は、目の前であなたの演奏を聴きたという。
私には形を変えて行く月の下(もと)、あなたの歌声を楽しんでいた思い出だけ。
その声も、途絶えた今。
胸に空虚さを抱え、ここにいるだけの私。
あなたと共に行く、銀の姫にはなれなかった。
いつかあなたのいる場所ちかくの、金色の月の砂漠に行ったなら、丘に登って海を眺めて欲しい。
その時は必ず…
その先にいる私を、思い出しておくれ。


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