【四人声劇】晩秋、月夜の宴
◯芳虎(バンラン) 文官
△郝(ハク)※海田君(ヘジョングン) 王族
▢萬徳(マンドク) 武官
男性3人は幼馴染
♡秋月(チュウォル) 妓生(キーセン)
△やぁバンラン、久しぶりだな。元気だったか?
◯ああハク。来てくれたのか。この通り、なんとか元気だ。今宵は…月が綺麗だな。
△ああそうだな、今夜は月が綺麗だ…バンラン、それはオナゴを口説く時に使う言葉だぞ。
◯まったく、そうだ(フッ)
△ところで今夜は何の用事だい?君からの呼び出しも珍しいが、場所も妓楼とはどういうことだ?
◯ああ、急に呼び出してすまない。数日前にマンドクに会ったのだが、月に関する何か面白い話を書いて欲しいと頼まれたのだ。場所もマンドクの指定だ。
△数日で書き上げたのか?バンランは昔から文才があったが、筆も早いし羨ましいよ。というか、呼び出した張本人のマンドクはまだ来ないのか?
(遠くから徐々に近付いて来る声)
▢うぉぉぉぉーーーーー!
◯噂をすれば…やって来たようだ
▢やぁハク、バンラン!元気だったか!それにしても妓楼の中をあちこち探したぞ。チュウォルのヤツ、俺達とは見習い妓生(キーセン)の頃からの知り合いなのに、こんな妓楼の隅の粗末な部屋に通すとは。
◯仕方ないさ。いくら売れっ子のチュウォルでも、大した売り上げにもならない男3人の宴なんざ、そう豪華な部屋も用意出来ないさ。それに私は、酔客や妓女(ぎじょ)達がバカ騒ぎをしている所よりは、妓楼の隅の静かな所が好きだがな。
△それにしても妓楼だぜ?俺なら金子(きんす)を多少なりとも渡して、妓女を何人か付けて貰うがな。
▢ハクは相変わらず女好きだな。だから早々に、王の跡継ぎからも除外されたのだぞ。そのうち都中の童(わらべ)達にも、流行り歌にされて歌われちまうぞ。
△女好きの君(クン)とでも歌われるのか?そもそも俺の母上は平民出身の賓(ひん)に過ぎん。王妃様が現世子(げんせじゃ)である弟を産んだ時点で、俺が跡継ぎにならないことは決定していたんだ。それよりおまえら、いい加減幼名(ようめい)のハクではなく、海田君(ヘジョングン)と呼んだらどうなんだ!?
▢ハクはハクだよ。俺達は幼かった頃に、大人になっても地位も名誉も関係ない、お互い名前で呼び合おうと誓ったじゃないか!?
◯二人共、少し落ち着け。そもそもマンドク、もう大人なんだから遠吠えで登場するのは辞めないか?おまえの遠吠えに、月のウサギも驚いて口から仔を産むぞ。
▢いやいや、何をするにもまずは声を出して、氣合いを入れることが大切なんだ。それよりバンラン、お願いしていた月の物語、書き終わったんだろう?
△月の物語とは。さてはマンドク、甘美な物語をさも自分が書いたと偽って、どこぞの美女にでも贈るつもりだな?
▢ち、違うわい。今、武官の間で優れた物語を話すのが流行っているんだ。今年は取り立てて大きな事件もなく平和で、武官はみな暇なのだ。
△平和なことは良いことだが。マンドクくん、君は昔、試験のたびにバンランに泣きついていたが、今もまだ泣きついているのかい?
▢な、何を!ハクこそは昔は恋文を書くと言って、バンランに泣きついて書いて貰っていたんだろう!?
△泣きついて書いて貰っていた?…ことも数回はあっが…バンランの書く恋文は、女子には好まれぬ漢詩ばかり。結局はいつも俺の書いた艶(なま)めかしい文章で、女は皆イチコロさ。今では妓女も良家の娘も、王妃様さえもメロメロにするほどだ。
◯流石に王妃様はなかろ。さあ、これが私の書いた月や星の話さ。
△おお、流石バンラン。今回も素晴らしい。読みやすく面白いじゃないか。
▢確かに読みやすい…はずだ!漢字が一文字も使われてないじゃないか!これでは大人ではなく、子供が喜びそうな?
◯そうだマンドク。よくわかったな。これは子供に読み聞かせるように書いたものだよ。うちの息子も大きくなって来たから、読み書きを覚えさせる為にもいくつか書いてみたんだ。
▢バンランの息子、もうそんなに大きくなったのか!早いもんだな。正一位(しょういちい)の右議政(ウイジョン)様の娘と、初恋を実らせて結婚して…今ではすっかりカカア天下のようだが、上手くやっているのか?
◯それを…言うな。すぐに浮気を疑われるのだ。何か書いているのがバレたら、それこそ、どこぞの女に恋文か?と大変なことになりかねない。だから隠れて書いていたのだが…最近バレてしまってな(汗)なんとか今は、息子に読み書きを覚えさせるという名目で許されているんだ。
△賤民でも王族でも、女が強いことには変わりない。それに今は地位や名誉だけではなく、財力や処世術が物を言う時代。世知辛い世の中さ。ま、俺はテキトーに王族の役目を全うして、風流を極め、生きているからこそ味わえる、春を楽しむのさ。
▢なんだか…切なくなって来たな。
△二人は順当に行けばそのうち、王を支えこの国を益々栄えさせる重臣になるはずだから、心配ないさ。
◯今宵は月が綺麗だ。財や処世術などと下世話な話はひと先ず、月を眺めて男3人で乾杯といこうではないか。
♡おやおや皆さんお揃いで。見目麗しい、朝鮮建国の立役者を祖とする旦那方が、杯を傾けて見上げるのは、秋の月と書く、この私でしょう?
◯おやチュウォル、元気だったかい?随分と売れっ子になったらしいじゃないか。昔はやせっぽっちだったが、すっかりふくよかになって。
▢そうだな。まん丸になってまるでお月様のよう…そうだ!晩秋の夜空に上がる月。今夜からは晩秋の月と書いてチュウォルと呼ぼう。
△いやいや、晩秋の月もなかなか。熟れてまん丸、声を掛けずとも自らの重さでぽとっと落ちてくるかも知れないぜ。
♡ちょいと旦那様方。私はこの妓楼で一番の妓生なのよ。今夜だっていくつか宴があったのを、早々と切り上げてここに駆け付けて来たんだ。大体、いい年の男が揃いも揃って、何をしてるんだい?
◯今夜は私の書いた話を、皆で読もうかと思ってな。
▢そうだ、俺がお願いした話が出来上がったんだよ。武官の間で色々と「お付き合い」があるのだ。まぁ、売れっ子のチュウォル様にはわかるまい。
△俺の風流で艶っぽい話も聞かせてみようじゃないか。チュウォルなんざ足元にも及ばない、良家の娘との経験を元にした話だ。
♡まったく、黙って聞いていれば好きなことを言って。旦那方の夜の秘め事、妓女仲間に聞いて知っているのよ。ひとつひとつ、話して聞かせてあげましょうか?
△(ウッ)それはどんな…
▢話を…(ゴクッ)
◯(汗)まぁまぁ、皆こうして揃ったことだし、今宵は盃を重ね晩秋の月を肴に、思いつくまま語り明かそうではないか。