[三人声劇]蟹座の女

♂️1:♀️2
□主人公の高2の男子(語りも含める)
〇大学生の姉
△高2女子


□俺の姉ちゃんはブラコンだ。
4歳上の姉ちゃんは、いつも俺を守ってくれた。
小学校に入った時、背が小さかった俺は何度もいじめられそうになったが、その度に姉ちゃんはどこからともなく現れて、いじめっ子たちをボコボコにして俺を助けてくれた。
中学に入った時は、姉ちゃんはもう卒業していなかったけれど、俺が姉ちゃんの弟だとわかるとみんなが優しくしてくれた。

2年生になると身長も伸びていじめられそうな子を助けることも増えたし、モテるようにもなった。
バレンタインデーには毎年、両手で抱えきれない程のチョコレートを持ち帰るようになった。
正直、俺は面倒くさかったけど、姉ちゃんは毎年お返しのクッキーを手作りし、女の子一人一人に手紙まで付けてくれた。

でも…不思議なんだよな。
お返しを渡した女の子は、次の日から必ずよそよそしくなるんだ。
ま、女の子は気まぐれでよくわかんない生き物だから俺の考え過ぎだよな。
姉ちゃんを見ていれば、よーくわかる。
ん?これじゃまるで俺がシスコンみたいじゃねーか。
とにかく、姉ちゃんは仕事で忙しい両親の代わりに、俺を守って来てくれたことには変わりないんだ。

そんな俺にも、高2になって初めて彼女が出来た。
明るくて優しくて気が利いて…そして可愛い。
俺の好きなK-POPアイドルに激似だ。
2学期の中間テスト前に、初めて彼女を俺の家に招待することにした。
部屋を掃除して、余計なモンは捨てて。
もしかしたら、彼女とあんなことやこんなことに…
妄想が、加速して…
イカンイカン!
いや、その前に大きな難関が待ち構えている。
そう、俺の姉ちゃんだ。

今日の午前中、大学で授業を受けてる姉ちゃんに
「学校終わったら俺の部屋で友達と試験勉強するから」
と、LINEした。
彼女の提案で、寄り道して少し遠い所の美味しいと評判のケーキ屋さんに行って、ケーキも買った。
俺は全部ショートケーキでいいと言ったけど、彼女のアドバイスでナッツやらベリーやらの、色とりどりの数種類のケーキを選んだ。
準備は抜かりない!ハズだ。

彼女を連れて家に帰ると、いつも通り誰もいない。
紅茶を淹れて、彼女を俺の部屋に案内して。
少し勉強して、他愛もない話で笑って。
あっという間に時間が過ぎる。
日が陰り始めた頃、彼女のお母さんから「帰って来るように」というLINE。
今日はナニもなかったけど…男らしく彼女を送ろう。
彼女と二人で階段を降りる。
居間に入りかけた時、玄関を開ける音がした。
姉ちゃんだ。
バイトを終えた姉ちゃんが帰って来たんだ。
何も…ないといいが。

◯「ただいまー」
□「お、おー。おかえり」
◯「あんた友達と勉強するって言ってたけど」
□「あ、あー友達…いや、その」
△「こんにちは!」
◯「こんにちは…」
□「姉ちゃん!俺の、彼女。2年生になって付き合い始めたって言ったじゃん」
△「はじめまして、お姉さん♡いつも□□くんにはお世話になってます!」
◯「…はじめまして。いつも弟がお世話になっているみたいで…」
□「あ、あのさ姉ちゃん。冷蔵庫にケーキが入っているんだ。バイト終わってお腹すいているだろ??」
△「お姉さん、私と□□くんが二人で選んだんですけどぉ、よかったら召し上がってください♡」
◯「そぉ?じゃあ…」

姉ちゃんは気持ち強めに冷蔵庫の扉を開いて、ケーキの箱を取り出した。

◯「あらっ✕✕のケーキじゃん!全部美味しそう!この季節のラズベリーの、頂こうかな?」
△「お姉さんそれ、私も一番美味しそうだなって思ったんですぅ♡上からたっぷりラズベリーソースがかかってて、ルビーみたいで可愛くないですか?」
◯「そうね、美味しそうだしとっても可愛らしい。真っ赤なソースが血が滴ってるみたいで…ゆっくり味わいたくなるわね」
△「是非!ゆっくりちゃんと味わってみてください♪」
◯「フフッありがとう」

一瞬、空気が凍ったようにも感じたが…

驚いたことに、彼女が帰る時には姉ちゃんは笑顔で俺達を見送ってくれたんだ。
ケーキも喜んでくれたみたいだし。
流石、俺の彼女。

彼女を家の近くまで送り、家に帰ると姉ちゃんはいつものように、キッチンに立って家族4人分の夕食を作っていた。
…いい匂い。
鍋を覗くとグツグツ煮込まれている。
今日の夕食は俺の好きなカレーだ。
てか、ちょっと煮込み過ぎじゃねーか?
まるで煮えたぎる地獄の…。

◯「あ、おかえり。今夜はカレーだよ」
□「うん、てかさ。彼女どうだった?」
◯「あんたの彼女にしては可愛いじゃん。明るいし気が利くみたいだし」
□「だろ!俺が選んだ女だからな。彼女も、お姉さん素敵だねって言ってたよ。そうだ、姉ちゃんが占いが趣味だって言ったら、俺達の相性占って貰いたいって。えーっと誕生日は…✕月✕日」
◯「△△座ね。あんたが□□座だから、火のエレメントと風のエレメントで、相性は悪くないんじゃない?あとでホロスコープ作るから、渡してあげて」
□「サンキュ!それより腹減ったぁ。カレーまだ?」
◯「まったくもう。人に占いの話フッておいて、あんたはいっつも全然興味ないんだから。風のエレメントはさっぱりしているけど、もう少し興味持ったら?」
□「はいはい。どうせいつもの、私は水のエレメントの蟹座だからって話になるんだろ?」
◯「そうよ。蟹座はね、母性の星なの。大切なものを守ろうとした大蟹が、ヘラクレスに立ち向かって踏み潰されて殺されてしまう。それを可哀想に思ったヘラが、空に上げて星座になったのよ」
□「俺にはその蟹座の母性が、ちと重過ぎるんだけどな」
◯「何言っての。うちは共働きでパパもママも忙しいし、あんたが生まれた時、ママに言われたんだから。今日からお姉ちゃんなんだから、弟を守ってって」
□「はいはい、姉ちゃんには感謝してますよー。てゆーか、ケーキ食べた?」
◯「あーケーキね。夕食のあとにゆっくり食べようかと思って。そろそろカレーも出来そうね。ホラ、手洗って来て」

姉ちゃんに急かされて、洗面所に手を洗いに向かった。
キッチンから姉ちゃんの声が聞こえてきたが…ま、鼻歌でも歌っているんだろ。
ああーでも、今日は俺の部屋に初めて彼女を呼んだし、姉ちゃんは機嫌良さそうだし、上々だ!

◯「血ノ池のように、良く煮込まれたカレー、美味しそう…蟹座は、大切なものを自分を犠牲にして守る星。今世は…前世を繰り返さないわ…フフッ……明るくて可愛いヘラクレスさん、弟を頼むわね」


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