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初めてのクリスマスツリー①
今日、三年間の同棲生活を解消する。
荷物を纏めてみたら、キャリーバッグと段ボール箱一つ。
案外、少ないもんだな。
残るは、バラバラに千切れたクリスマスツリーだけ。
クリスマスまであと数日なのに、昨夜はこれを持って振り回したんだ。
同棲を始めた時に、彼と一緒に買ったクリスマスツリー。
今年になって、お互い何か違うと感じるようになっていたけれど、秋も深まったある日、話し合って年末までに、それぞれ違う場所に引っ越すことにした。
大人だからお互いに責任があるんだよと、彼は言ってくれていたけど、私は、彼のことが好きという気持ちより、日増しに結婚したいという気持ちだけが大きくなって行った自分を、どこかで責めていた。
それなのに。
数日前、mixiに見知らぬ女性からメッセージが届いた。
「彼とエッチしました。お金も貸しています。ブロックされて数日前から連絡が取れてません。彼女さんから彼に、mixiを通して謝るように言ってください」
見るからに、私綺麗でしょ?と言わんばかりのプロフ写真の彼女は、キャバ嬢だった。
彼は女性にモテるタイプではないし、ましてや相手はキャバ嬢。
そんなことするはずないと、最初は信じていなかった。
昨夜、引っ越しの荷物を纏める彼の背中に声を掛け、携帯を見せた。
問い詰めてみると
「エッチしました。お金は借りているけれど、貸してくれとは言ってない」
と、返事が…返って来た。
キレた。思いっきり、キレた。
一通り暴れて罵倒して、綺麗に飾り付けてあったツリーを握り締め、彼に向かってメチャクチャに振り回した。
止めようとしたのか、彼に、左頬を打たれた。
同棲解消を決めた時は、ただ冷却期間を置くつもりだった。
彼の新しい住所も教えて貰ったし、暫くしたら彼の家に行って、料理を作るつもりだった。
でも、もうおしまい。
目の前に広がるツリーの残骸のように、私達の関係も、私の心もグチャグチャになってしまった。
午後には、不動産屋が来て部屋を引き渡す。
寂しげにリビングのフローリングに広がるツリーや飾りを、ゴミ袋に入れて行く。
残るのは、サイズの合わなくなった安物のペアリングと、痛々しい左頬の青アザだけ。
この頬の青アザも、年明けの仕事初めまでには、ほとんど目立たなくなるだろう。
ツリーの残骸を入れたゴミ袋に、最後にペアリングを投げ入れる。
遠くから聞こえるお昼のチャイムを聴きながら、左頬の青アザに、厚くファンデーションを塗り込んだ。