見出し画像

小林恭二『悪への招待状』 【うちの本棚】#歌舞伎

読書感想でなく、本棚にある歌舞伎関連書籍について、どんな本なのか記録しつつ紹介するものです。

基本情報

タイトル:悪への招待状
発行
(奥付の初版の年を記載):1999年
著者:小林恭二
出版:集英社新書

表紙

『悪への招待状』表紙

特徴

この本の全体が、1つの人形劇のようになっている。読者代表として選ばれた現代の若者2人が、幕末の江戸の芝居小屋で芝居見物を体験する、という形で話が進む。観るのは河竹黙阿弥の《三人吉三廓初買さんにんきちさくるわのはつがい》。

芝居小屋へ行くまでの準備から、話は始まる。江戸の庶民のオシャレを踏まえた着替えをし、ちょっと良い席(桟敷席)で歌舞伎を観るときのルール、幕間の食事、当時の自然災害や社会情勢を教えてもらいながら、芝居を観る。

物語の中で、《三人吉三》が進んでいく。芝居を観ていた人々の生活を感じながら、1つの演目をじっくり解説してもらえる。さらに、黙阿弥と、4代目鶴屋南北、近松門左衛門それぞれで「悲劇」の描き方にどんな違いがあるのか、といったことも書かれている。

その他

わたしは、この本を買った細かい時期を憶えていないのだが、20年以上前なのは違いない。知ったときにはすでに、「歌舞伎を観始めたら読んだほうがいい」と名高い本だったと思う。
noteを書くにあたって読み直すと、他の演目もみんな解説してもらえないだろうか?と思ってしまうほど、時代背景、役者、作者、全方向に詳しい本である。

ただまあ、この本をずいぶん前に買い、読んでいたのに、わたしは最近までずっと、黙阿弥が苦手だったのだから、なにかを理解するには人それぞれ、必要な時間があるのだとは思う。この本を読むだけではなく、自分にとっての「良い舞台」に出会うことがやはり必要かもしれない。

巻末に、安政七年一月の《三人吉三廓初買》の番付(配役表)がついている。この本の中の《三人吉三》は、これに基づく配役となっている。
なんとも風情のある番付で、幕末は遥か遠い昔に思える一方で、《三人吉三》でお坊吉三を演じたのが後の九代目市川團十郎、気の毒な死となる十三郎を演じたのが後の五代目尾上菊五郎と聞くと、この二人は写真も残っているので急に身近に(?)思える。

九代目團十郎や五代目尾上菊五郎のブロマイドは、文化デジタルライブラリーでも見ることができる。

↓九代目市川團十郎のブロマイド

↓五代目尾上菊五郎のブロマイド