【歌詞解釈方法論Part.2】フォニイで学ぶ歌詞解釈の方法 後編
こんにちは、ウーパールーパーです。今回は歌詞解釈方法論のPart.2になります。Part.1は以下になります。
ではでは早速いきましょう。
1. 2番の歌詞を読む
2番の歌詞の展開は、いくつかパターンがあって大体は下記のいずれかになります。これを意識しているだけで少し読みやすくなると思います。
・1番と類似の内容を別の表現やエピソードで伝える
・1番からの時間経過による状況の変化が描かれる
・1番とは別の視点で描かれる
さて、フォニイはどうなるでしょう。
「そらの音」にまずは注目してみましょう。「そら」がひらがなになっていますね。Part.1にもあったように、あえてひらがなになっていると思われる所は要注目です。
ひらがなにする理由ですが、考えられる理由は以下のようなものが挙げられます。
・読み間違いをしてほしくない(漢字だと読み間違いの可能性がある)
・掛詞になっている
一つ目の読み間違いですが、漢字にすると「空」になるので「から」や「くう」と読んでしまうのを嫌った可能性があります。無くはないですが、素直に読めば「そら」と呼ぶのであまり納得感はありません。
もうひとつの掛詞として考えてみましょう。やはりここではテーマになっている偽物や本物といった単語に近いものを探したいところです。ぱっと思いつくのだと「そら音」でしょうか。悪くはないですが、ひらがなになっている理由としては弱いですね。(漢字でも掛詞になってしまう)
とはいえ、私ではこれ以上もっともらしいものは見つけられませんでした。他の案はこじつけみたいなものばかりなので割愛します。
とりあえず上記の案を採用すると、「そらの音」は「空の音」と「そら音」を掛けていることになります。空の音は、1番で雨が降っていたことを考えると雷の音を表しているのかなと思います。時間が経過して絶望の雨がよりひどく降り注いでいることがわかります。もしかすると「周囲の声」の比喩なのかもしれませんね。
「そら音」は鳴っていないのに鳴っているように聞こえる音のことです。そのまま捉えてもいいですし、「嘘のあたし」=「造花」の音が大きくなっているとも捉えられます。
1番の自分が自分を追い詰めていくというのと同じで、鳴ってもいない音に勝手に自分が追い詰められている表現かもしれません。ただ、1番では「本当のあたし」が追い詰める側だったので、ここでは「嘘のあたし」が追い詰めていることになってしまいます。時間経過で造花を求める立場から拒む立場に逆転しているように見えますね。
「色の目」はおそらく色眼鏡のことでしょう。「色目」も可能性としてありますが、そこまで性を取り扱っているわけではないので、色眼鏡のほうが自然だと思います。
色眼鏡 = 周りの偏見 = 周りから見た「造花のあたし」と思えますが、問題は「あなたを」の部分です。ここも違和感ですね。
ここまではずっと「あたし」の話でした。突如出てきた「あなた」は誰なのか?
出てきている登場人物としては、「本当のあたし」「嘘のあたし(造花)」「恋人?」の3人です。(恋人は解釈によっては存在しないですが)
続く歌詞で「鏡に映るあたしを欠いて」という言葉から「本当のあたし」が失われていることがわかります。それを踏まえると、「嘘のあたし」視点に切り替わり、「本当のあたし」が周囲の色眼鏡に溶かされて消えてしまったと捉えられそうです。そう読むのであれば、「そらの音」は周囲の騒音と「嘘のあたし」の声であると捉えてよさそうですね。造花を目指して頑張って、ついには造花が大きくなって「本当のあたし」のほうが失われ始めた。ただ、それであれば「鏡に映るあなたを欠いて」のほうが自然です。
恋人=あなたとすれば、嘘のあたしがどんどん大きくなって、あなたを色目で溶いていく(洗脳して骨抜きにしていく)。ついには本当のあたしが見えなくなって、皆が理想のあたし(造花)を追いかける。
こちらの解釈も候補ですね。中々難しい楽曲で頭が混乱してきました…
この解釈であれば、「あなた」は造花を見る周りの人という解釈でもよいかもしれません。それであれば1番の失恋した解釈とも整合性が取れます。
いずれにせよ、1番は「造花になり切れない自分への嫌悪」が描かれ、2番は「本当にこれで良いのかと思いながらも、より造花に近づいていく自分」を描いていると読めそうです。
2. 変則部分を読む
世に一般にCメロやDメロと呼ばれる部分です。どうやら定義が曖昧らしいので今回は変則部分と呼びます。気になる人はCメロとかで検索すると、いろんな人が違うことを言っていたり怒っていたり馬鹿にしていたりする地獄が広がっているのでググってみてください。
多分J-POP特有の言い回しなので、音楽用語として明確に定義されたものではないんでしょうね。楽譜とかにも出てこない概念ですし。(楽譜とかだと2番のAメロはDとかになってる)
変則部分は非常に重要です。これまでの流れから離れるので、必然的にリスナーが耳を傾ける部分であり、重要な歌詞が当てられるケースが多いです。
再び「愛」がキーワードとして出て来ました。同時に愛はくだらないものであるという主張も見えます。
ここの台詞も結局のところは自問自答だと考えられます。何故あたしは愛なんてくだらないものを欲してしまうのか?
これに対する明確な回答は得られていません。
これまでの流れから推察すると、誰かに愛してほしい。あたしの苦悩を分かってほしい。欠けてしまった本当のあたしを見つけてほしい。
そういった思いがあるのかもしれませんね。
そもそも自己肯定感の低い主人公が誰かに認められたい(愛されたい)と思うことは想像に難くないです。そのように考えればここでいう愛は恋愛だけの話ではないのでしょう。友愛などもひっくるめた自分のことを分かってくれる存在のことなのかなと思います。
続く「泳いでいる夜の電車」もキーワードですね。何らかの比喩であることは予想できますが、これまで電車の描写はなかったので少し困惑してしまいます。
夜の海を泳ぐ電車でぱっと思いつくのは宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でしょうか。銀河鉄道の夜は親友との別離の話です。おそらくは「あたしのことを愛してくれる存在」と別れを告げる描写と予想できます。どうせ誰も分かってくれない。そんな人を探すのを辞めて踊り明かしてしまいましょう。
3. 前の文に戻って読み直す
ここで主人公は自分を愛してくれる人をさがしているという仮説がたちました。
こういった主人公のスタンスが予想できたら一度最初から読み直してみると別の気付きが得られるので、ぜひ逐一読み直すことをおすすめします。全く見え方が変わる瞬間がとても気持ちいいです。
上記の前提を持って読むと「色の目があなたを溶いている」が、愛を探してみても、色目(性欲/偏見)とあなたの愛が混ざってしまってわからない、という悩みの描写に読めます。だから「あなた」だったんですね。色目(色欲)も色眼鏡(偏見)もどちらも当てはまりそうですし、掛詞にしている可能性もありそうです。
愛されるために理想の自分を演じたはずなのに、自分を見失って結局誰からの愛を手に入れる事も出来ずにいる
これが主人公の置かれている状況だということがわかりますね。
4. ラスサビ前の盛り上がりを読む
この曲は結構特殊なケースで、変則部分からそのままサビに突入するのではなく、一度もとに戻ります。最近は昔より複雑な構成の曲が増えてきているので、こういったこともそれなりにあります。
1番と同じく、「造花を貼り付けたあたし」の目線になっているのですが、異なる点としては謎の内容が「何故何故此処が痛むのでしょう」に変わっています。
ここでもやはり理想の自分になったはずなのに、胸の痛みを感じている姿が描写されています。
きっと愛を見つけられないからだろうという想像ができますね。
「造花になったあたし」であるにもかかわらず、散々な日々は変わらず、絶望の雨も止まず、何も変わらないことがわかります。
結局は愛されることを手に入れることも諦めることもできず、嘘に絡まっている。
2番に入ってから時間経過と視点の移り変わりを追ってきましたが、結局元の木阿弥に戻ってしまい袋小路から出られない絶望がこの部分で描かれています。
5. 結論を読む
基本的には1番のサビと同じです。愛を求めて理想の自分を演じて、もう自分が何なのかも見失ってしまった。結局は求めた愛と同じようにそんな悩みすら消えてゆく。
そして、「さようなら またねと呟いた」に続きます。ここまで一貫して「さようなら」を言えずにいた主人公がついに別れを告げます。
何に?
ここまでの解釈を踏まえれば、それは恋人、ひいては愛されることそのものでしょう。
誰かあたしを分かってくれるんじゃないか、そんな希望すら失ったからこそ漏れ出た別れの言葉。
誰かに愛されて、本当の自分を見つけてもらうこともなく、これからも嘘に絡まっていく。造花(あたし)だけが知っている、誰にも分かってもらえなかった秘密のフォニイ(あたし)
6. Part.2まとめ
終わってみればすごくシンプルな内容でした。テーマは「誰も本当の自分を見てくれない絶望」だったのかなと思います。きっと誰しもが持つ、他人に良く見られたいという気持ちと本当の自分を知ってほしいという気持ちの揺れ動きを比喩や掛詞を使うことで抽象化して多くの人に届くようにしたことで、この曲はたくさん人に受け入れられる名曲になったのかなと思います。
フォニイの歌詞解釈としてはPart.2で終わりですが、Part.3では歌詞解釈に悩んだときのTipsとかを書くつもりです。
かるい気持ちで友人のリクエストに答えたら、恐ろしい量になってしまいました…
ではでは、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。