[一般TCG理論]「なんとなく練習」から脱却する(したい)
多くの人がカードゲームの大会に出るためにデッキの調整練習をしているが、「何を以て調整練習と呼ぶのか」について語られることは少ない。それはすなわち自分のするべき練習を言語化できていないことにほかならず、振り返りも非常に局所的かつ主観的にならざるを得ない。
これは私自身の話でもあり、かけた時間に対して何か言う事はあっても質について言及することは少ない。
何故かと言うと、「質の良い練習」が何かわかっていないからだ。どうすれば質の良い練習で、どうなれば十分な練習ができたと言えるのか?これに答えられず漫然と練習を積み重ねてしまっている。
本記事では、PDCAを回せるようにシステム開発プロジェクトの知見を使って調整練習のプロセスを明確化することで「練習の質の言語化」を目指す。
1. プロジェクトについて
プロジェクトとは、「期限内に目的を達成するための取り組み」だ。すなわち、目的と期日があればプロジェクト足り得る。
そして、システム開発ではプロジェクトをプロセスに分解する。
設計、製造、テストなどのプロセスにわかれ、それぞれのプロセスには成果物が存在する。
プロセスの品質は成果物により明確になる。
すなわち成果物を定義し、制作することでそのプロセスが良いものであったかどうかを判断できるようになる。
それでは練習のプロセスから成果物を考えてみよう。
2. 練習のプロセスを考える
プロセスがすべて完了することはそのまま練習の完了を意味する。すなわち、あなたにとってどの状態になれば「練習を完了した」と言えるのか?を定義することだ。
まずはおおまかに練習の流れを整理する。
①環境分析
②デッキ選択(デッキ構築含む)
③デッキ調整と練度向上
ここからさらに細かく分解する。
2-1. 環境分析プロセス
環境分析の要素をさらに分解してみると、以下の内容がある。
①環境に存在するデッキの把握
②デッキの分布予想
③環境の特徴理解
①と②は非常に分かりやすく、成果物の例としてはTier表などが挙げられる。
Tier表の生成には、調整チームが十分いるのであれば各メンバーがランクマッチで当たったデッキを集計すればよい。
また、集計結果はリアルタイムにチームの誰もがアクセスできることが望ましい。エクセルなどの表計算シートをクラウドで共有することが最も簡便な方法である。
もうひとつの方法としては、直近の競技大会結果から推測する方法である。リアルタイム性は若干失われるものの、大会参加者のみのメタであるため、競技勢におけるメタを高い精度で理解できる。
可能であれば両方を実行することで高い環境デッキの把握と分布予想が可能になると考えられる。
問題は③である。
環境の特徴を理解するために必要なこととして、Tier上位のデッキのキーカードを把握する必要がある。ではどこまでを上位とするのか?を設定する必要がある。
例えばスイスラウンド9回戦で6-3以上を目標とすると、おおよそ必要な勝率は67%だ。
想定していないデッキはすべて勝率50%と仮定すると、7割のデッキに70%勝てるのであれば全体勝率は64%となる。少し足りていないが、最初に設定するラインとしては妥当であろう。
実際はチームの目標レベルに合わせて設定する必要がある。
このように設定するとTier1に不利であっても他のデッキで勝率70%を満たすのであれば問題ないことがわかる。
ただし、自分が対処を捨てたデッキが明確に不利なデッキが存在しない場合、上位になればなるほど当たる確率は上がり、無視することは困難になる。対処を捨てたデッキが環境で良い立ち位置にいるかどうかは重要だ。
さらに、各デッキの対策しやすさを検討し、メタの70%以上を満たすように対象を選ぶ。それらのデッキの特徴を文字として箇条書きで整理する。
箇条書きする際に、埋めるべき項目を明確にしておくと、より網羅的に整理できるはずだ。
例えば以下のような項目が考えられる。
・相手のキーカードのカードタイプ
・相手が干渉しにくいカードタイプ
・重要となるターン
・相手が弱くなるターン
これらの項目を適宜設定し、対象となるデッキに多く共通している項目が環境の特徴となる。
例えばキーカードは生物であり、除去が有効である、とか、3ターン目の動きがすべてのデッキのキーになっている、などだ。
以上が環境分析のタスク例だ。
成果物の例としては
・Tier表(%まで記載されたもの)
・狙うデッキの一覧
・各デッキの特徴メモと環境の特徴メモ
考えられる。
ここであくまで例としているのは、成果物の品質は即ちプロセスの品質であり、チームや目標に応じて成果物が変わる可能性があるためである。
逆に変更がない、同じ成果物でもより良いものになっていかないのであれば、練習の質は変わっていないことに他ならない。
2-2. デッキ選択およびデッキ構築
環境分析の結果を元に自身のデッキを選ぶプロセスだ。ここについても細かくプロセスを分解する。
①採用可能性のあるカードの把握
②各デッキ相性の把握
①については有識者のデッキガイドがあるならばそれにより学習することが最も手っ取り早い。オリジナルデッキやマイナーデッキでガイドが無いのであれば、自身で回して確認することになる。
チームがいるのであれば複数人でリストを見ながら議論することも有効だ。
成果物はシンプルに固定枠と自由枠の一覧が考えられる。
また、環境に存在する有効なカードを把握することも必要だ。有効なカードは必ずしも強力なメタカードである必要はない。例えば環境の除去が4点火力が大半であればタフネスが5以上であり採用に足るスペックがあれば十分有効なカードだと言える。これらのカードはデッキチューンやサイドボードの候補となるし、オリジナルデッキ構築の指針にもなる。ただプレイするだけで有利になるカードがあることは非常に価値があり、その可能性を把握することは重要だ。
ここでの成果物は採用候補の一覧になるが、カードプールが多く、リソースが割かれてしまう場合はどういった特徴が有利足り得るのかを整理したメモで十分だと考えている。(もしかすると1の環境理解で行った特徴メモで十分かもしれない)
②については各大会結果の相性表を確認することや、同じマッチを何度か繰り返すなどして相性確認を行うことになる。
成果物の例としてはSNSでよく見るような相性表になる。
2-3. デッキ調整と練度向上
最後はデッキのプレイ指針の構築や小技などの把握、つまりは練度を上げるプロセスになる。
各対面に対して、どのようにプレイすることが最も適切かを模索し続ける作業だ。チームに所属しているならフレンドリーマッチで練習したり、ラダーで得た知見をまとめていく作業になる。
このプロセスの成果物の例としてはプレイガイドやプレイメモが考えられる。
2-4.プロセスと成果物まとめ
上記にあげた一般的な調整のプロセスと成果物の例をまとめると以下のようになる。
知っていることばかりだと思っただろうか?
それは正しい。今回重要なことは、新しい練習方法の模索や開発ではなく、今までの練習をプロセスに区切り成果物を定義することで品質を可視化することだ。
3. QCDを考える
プロジェクト開発ではQCDのバランスが重要視される。
QCDとは、Quality(品質)、Cost(費用)、Delivery(納期)の頭文字を取った言葉だ。
これらはトレードオフであると考えられ、何かを取ればその分何かが失われてしまう。
今回のプロジェクトは大会に向けた練習なのでDは動かすことができない。
これらはトレードオフなのでコストをかければかけるほど品質が上がっていく。たくさん練習すればレベルが上がるという当たり前の話だ。
問題は、納期が動かせない以上コストが有限である点だ。限られたコストをどのプロセスにどれだけ割り振るのかを考えなければならない。
人によっては環境分析に大半のコストを捧げる人もいれば、練度向上にコストを割く人間もいる。
自分自身のスキルや環境を踏まえてリソース(練習時間)の割当を行う。基本的には自分の能力向上に最も価値があるプロセスにリソースを注ぐべきであり、もしもその判断を間違ってしまえばプロセスの質が上がったとしても成長は鈍化してしまう。QCDを最大化するコストスケジュール計画はどのプロジェクトでも重要だ。
ではどのプロセスが成長に繋がるのかをどうやって判断すればよいのだろうか?
最も単純な方法はリソースの割当パターンを毎回変えて試してみることだ。
そのなかで最も勝率が向上するバランスをみつけていけるだろう。私自身、最近それを試している。主観的には練度向上に時間をかけたほうが練習した気にはなるのだが、今のところは環境分析に時間をかけたときのほうが成果が出ているように思われる。引き続き自分に合った割り振りを模索していきたい。
また、自分のスキルの特徴を他人に聞いてみることも割り振りを模索するうえで有益かもしれない。
Cを可能な限り最大化したうえで、Qの向上を目指す。当たり前のことではあるが、自分のCがどの程度のボリュームなのかを明確に意識している人は少ないのではないだろうか。
Cの値を理解することで効率的な練習ができるようになるはずだ。
4. プロジェクトのリスク管理を行う
プロジェクトにはリスクがつきものだ。外部要因、内部要因様々だが、取り除けるリスクは取り除き、取り除けないリスクは影響が最小限になるようにすべきだ。
カードゲームのデッキ調整において考えられるリスクの例としては、体調不良、環境変化、チーム内不和など様々存在する。
特に環境変化は毎週のように起こり、対処が必須であるうえにこちらではコントロールできない要素のため、影響を最小限にしたい。
当たり前だが、環境変化のリスクの影響は環境分析プロセスが最も影響を受けやすい。
リスクのあるプロセスを先に行って、リスクが顕在化した場合、手戻りになってしまうので原則後半にそのプロセスを実施することで影響を受けにくくすることができる。
例えば既に存在するデッキの相性把握を優先しておけば、環境が変わった場合にも変更点の確認のみで済む。
早めに環境分析をしてデッキを決めてしまうと直前に環境が変わった場合に対応が難しくなるだろう。これは、先述の練度向上に時間をかけた場合に私の成績がよくない理由のひとつだと考えている。
とはいえいつまでも待っていると今度は大会までに調整が間に合わなくなってしまうので、どこかでリスクを飲み込む必要が出てくる。
例えば直近の大型大会までだったり、自分の練習可能時間から逆算したり、プロセスの一部だけを実施したりするなど、考えられる限りリスクの影響を最小化したスケジュールを組むことが重要だ。
5. まとめ
ここまでの内容を実施すれば、自分の練習成果が可視化され、何が足りなかったのかがわかるようになるはずだ。
自身のメタ表と実際のメタ表を照らし合わせるだけでその精度は把握でき、なぜズレてしまったのかの考察もできるようになる。
上位卓に自身と同じデッキがあるなら、そのプレイと自作のプレイメモを見れば誤った点も見えてくるだろう。
「観測さえできれば干渉できる。干渉できるなら制御もできる。観測できない、存在すら確認できないものは手の出しようがない」
というのはとあるアニメのセリフだが、全くもってその通りだ。
まずは自分自身の練習を「観測」することが自分を次のステージに連れて行ってくれると私は信じている。
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