クラブ史の中でのダニエル・レヴィ〜Epilogue〜
こんばんは。Mi2です。
一応、前回で本編は終了しました。最後にエピローグという形でこの企画の雑感やテーマであるクラブ史でのレヴィの立ち位置、スパーズの未来について書いていきたいと思います。
今回、レヴィ以前の会長について調べてみて1番感じたのは、"レヴィは革命家ではなく、改革者である"ということです。フットボール界に革命を起こし、ゲームチェンジャーとしての役割を担ったのはスパーズ史の中ではEpisode 2で取り上げたでアーヴィング・スカラーのような人物です。しかし、彼はゲームルールを変更した後に、すぐにその果実を喰らい尽くしてしまいました。
また、クラブは商業化をした先駆的な存在として、それに伴うあらゆる問題を他クラブに先んじて直面してきました。そのため、それなりの苦労と先駆者の失敗による不調もあったと思います。このようにクラブ内に先行研究が多く存在していた上で会長となったのがダニエル・レヴィです。レヴィは過去の会長達の失敗から、フットボール界ではゲームチェンジが頻発するが、その時にクラブを消滅させないことが会長の第1の使命であるという強い自覚が生まれたんじゃないかと思います。レヴィは市場経済という枠組みの中でどれだけルールが変更されても絶対にクラブを破滅させない方法を考えます。それがフットボール以外で稼げるフレームワークを作るということであり、そのために必要だったのが新スタだったわけです。そしてそれは現行(当時は近い未来でしたが)のルールであるPSRの枠組みでは、リーグ内で最強のクラブとなります。これから他のクラブが追いついてくるまでの間は、レヴィの1人勝ち状態となりそうですが、レヴィは上記のように過去の失敗からこの政策を取っているため、スカラーのように調子に乗って、放漫経営に移行することはありません。
一方、レヴィは安定した財政基盤の確立や新スタ建設といった大きな目的のためのコスト計算がバグっているという特徴があります。レヴィがかけたコストとして、安定した財政基盤の確保のためにはクラブ買収後から新スタ完成までの約19年間というコストを払っています。これだけ長い時間をリソースとして割けるクラブは早々ないと思います。いくらスパーズの栄光の時代を取り戻すためとはいえ、これだけの期間を我慢できるファンは少ないはずです。そのような視点から見れば、現地ファンのレヴィに対する批判は納得できる部分はあります。
また、前回も言及しましたが、レヴィの認識するファン像はかなり無理があるように感じます。おそらくレヴィはスパーズファンをレヴィと同じ質と量の情報を持っており、それらのファクトをレヴィと同じく冷静に認識できる人達だと思っているはずです。レヴィはオリンピック・スタジアムへの移転計画やスーパーリーグ計画、最近ではチケットの値上げといったファンから批判を受けるような決断をする際には"私達の判断をファンは理解してくれるはず"という趣旨のコメントを出しています。レヴィとしてはその時の状況を鑑みると、この決断を下さなければならないと冷静に判断しているのですが、ファンは偏った情報しか持っていなかったり、端からレヴィの決断を感情的に受け付けられなかったりするのです。まぁ、オリンピック・スタジアムへの移転未遂の時のように、新スタ建設という大目的のためだとしても、イースト・ロンドンへの移転はコスト(この場合、ノース・ロンドンの歴史を捨てるという損失のことです。)が高すぎやろという場合もあるので難しいところですけどね。今回の企画を通して、このような情報やファクト認識のギャップがレヴィとファンの関係を分断している要因なのではないかと思うようになりました。
さて、クラブ史でのレヴィの立ち位置についてですが、やっぱり当初の印象が正しかったのかなと思います。つまりレヴィは1人で石を積み上げる人であるということです。イメージとしては3匹の子豚の末っ子みたいな感じですかね。彼は外野から何を言われても自分の信念を曲げずにシュガー期までに崩れてしまったクラブのピースを1つずつ、より堅固になるよう積み上げていきました。ただ、他の家は急速に大きくなっていくのを横目に、作業スピードはとても遅いものでした。今、大きくなった他の家が崩れかかっている横でやっと基盤が完成したくらいです。
そして、レヴィはこの基盤づくりより先のことはできないのではないかと思います。ポチェ期以降に次はタイトルを狙えるフェーズだと誤った認識をしてしまったレヴィを見ると、レヴィが持つ冷静なファクト認識の精度が悪くなったような気がするのです。やはりレヴィもフットボールは門外漢であり、ここから先はヴェナブルズのようなフットボールのプロの出番なのかなと思います。レヴィはビジョンがないというわけではありませんが、おそらくここから先のゴールまでの道筋がわからないのでしょう。
最後にスパーズの未来について思うところを書いていきたいと思います。今までクラブの舵取りを1人で行ってきたレヴィですが、クラブの基盤を整えた今後はレヴィの手を離れていくことが正しい方向性だと思います。実際、クラブはフットボール部門全般を統括するManaging Director Sportという役職を新設し、スコット・マンをその役職に据えています。別のブログでも書きましたが、これはレヴィが任命したというより外部コンサルに依頼した調査を下に決断されたことであることも重要です。レヴィは人を見る目がないですからね。堅固な基盤を手に入れたクラブが今後ピッチ上の成功を再び手に入れれるかどうかはスコット・マンにかかってきます。先日、報道されていたスコット・マンのインタビューから、彼は職場環境やそこでの自分の立ち位置をとてもよく理解しているように感じたので、レヴィと対立して内紛みたいなことはなさそうです。そこは安心。そのインタビューを貼っておくので、興味がある方は読んでみてください。
今後のスパーズがどこまでライジングできるのか、栄光を取り戻せるのか、長いクラブ史から見ても大事な時期にきていると思います。久しぶりにタイトル獲得を見たいなと思う気持ちもあるし、ここで大ゴケするのがスパーズ!という気持ちもあるのが正直なところです。結果はともかく、いい時も悪い時も応援できるクラブがあるのは幸せなことだと思います。
思いつきで始めた企画もなんとか終えることができました。個人的にはスパーズに対する考えを整理する機会になったかなと思います。最後までお付き合いいただいた方、ありがとうございました。COYS!