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カービングスキーの論文(第8回)
今回が最後となります。
9. 考察2:パラレルターン以外のスキー技術及びパラレルターンに繋げる技術について
9.1 斜滑降
9.2 プルークボーゲン ⇒ シュテムターン ⇒ パラレルターンが上達の道筋なのか?
10. 結論
参考文献
8回もの長きに亘りご覧いただきありがとうございます。本稿はこれで完結ですが、これからも補足情報を不定期に載せたいと思います。
9. 考察2:パラレルターン以外のスキー技術及びパラレルターンに繋げる技術について
ここでは、3つの基本動作とそのコンビネーション運動の導入がパラレルターン以外のスキー技術にどのような影響を与え、またこれら動作をどう取り入れるのが良いのか、考察を試みる。
9.1 斜滑降
斜滑降は一般にアルペン滑走姿勢とも呼ばれ、スキーの基本技術の一つとして重要視されている。本項ではこれまで展開してきたカービングターンの動作・運動との関連性について考察したい。斜滑降時の姿勢(足元、バランス軸)をFig. 15に示す。結論から言うと、カービングターンの過程には斜滑降の局面はない上、一見両者の姿形は似て見えるものの、外力のかかり方や滑走状況が大きく異なることから、姿勢維持の仕方などを含めカービングターンと斜滑降は技術的に明確に分けて考えた方が良さそうである。
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Fig. 9-2に示した、斜面上で横を向き鉛直に立ち両スキーが水平で山側エッジが斜面上で軽く立った姿勢においては、両足に均等に荷重がかかっている。斜面が急になれば横ずれしないよう、もう少し角付けを強めることもある。その場合、これまで繰り返し述べている通り、バランス軸がより山側に位置することになり、両足の荷重バランスも山(内)足寄りとなる。
対して、斜滑降は外足への荷重(75~100%程度)で行うため、斜面に自然に(鉛直に)立った姿勢のままではでき難いことになる。ターンをする場合には身体の重心にかかる遠心力を利用して無理なく外足荷重を達成できるが、斜滑降では遠心力が働かない(ただし、回転半径の小さいカービングスキーでは斜滑降中にスキーの回転半径に従って緩やかに旋回するため速度が上がれば遠心力がかかることになる)。ではどうするのかというと、スキーの前後差を少し大きくし外向を強め、更に上半身(腰から上位)を谷側に傾けて外傾姿勢も作り、身体の重心位置を移動させ外足の荷重を増やそうとするのである(バランス軸は鉛直に保たれる)。ターン中に遠心力に対応して左右に身体を傾ける時自然に表れる外傾姿勢(くの字姿勢、アンギュレーション)と同じような姿勢を、遠心力の働かない状況下で再現しようとするため、身体を捩り窮屈でやや無理がある。
斜面を斜めに真っすぐに滑る際、エッジを立て外足荷重とすると安定性が得られ、横ずれせずに滑走できるので、これはこれで大きな利点であり、斜滑降の有用性には疑う余地はない。一方で、この外足荷重による安定性をパラレルターンプロセスの早い段階から得ようとすると、ターンの切り替えで踏み換えを行い(遠心力のあまり働いていない)前半にできる限り早くこの窮屈な斜滑降の姿勢を取り(谷側の低い位置にある内足を場合によっては持ち上げて)外足1本で滑る必要があるわけで、これは要するにカービングスキー以前のノーマルスキーで行っていたオーソドックスなパラレルターンで必要とされた技術のひとつであると分かる。これではカービングターンで必須な両足による『ひねり』動作を行うことは難しく、効率的かつ自由度の高いスキーの回旋を実現し難い。足場の不安定な状況下で安定したバランスの確保を最優先したい時にはこういった滑り方も必要となる場面があるかもしれないが、いずれにせよ、カービングターンに必要な動作・運動と斜滑降のそれとの関連性はあまりないと見て構わない。
9.2 プルークボーゲン ⇒ シュテムターン ⇒ パラレルターンが上達の道筋なのか?
基礎的なプルークボーゲンは、広いハの字スタンスを取り両スキーの内エッジが常時立った状態で行う滑り方である。安定したバランスを維持しつつ、スキーに迎え角が常に付いているため低速でのターンや制動がし易い。プルークボーゲンのスタンスでは身体の重心の真下に足元がないので、バランス軸を垂直に保ってスキーを真上から踏むために上半身も使って身体の重心を大きく左右に移動してターンを始動する。ターンの初期段階(谷回り)から外足荷重とするわけであり、この時の身体の重心の動きは斜滑降の姿勢を取る時と正しく同じとなる。シュテムターンも同様の動きを必要とする。更に、カービングスキーが普及する以前のノーマルスキーではパラレルターンをする際『角付け』だけではターンが始動できない(迎え角が作れない)こと、カービングスキーに比しエッジグリップ力が弱い(スキーが引っ掛かり難い)ことから片足でのスキーの回旋が比較的容易であることから、ターン初期段階から外足による回旋と外足荷重を最優先した身体の動き(例えば明確な踏み換えによるターンの切り替え)を必要とした。即ち、ノーマルスキーでは斜滑降・プルークボーゲン・シュテムターンからパラレルターンに至るまで一貫して同じ技術、同じ身体の動きで表現できていたのである。
これに対し、『角付け』によって半ば自動的にターンを開始(両スキーで回旋)できるようになったカービングスキーにおいては、ターン運動の初期段階に必ずしも外足荷重(及び外足だけによる回旋)を必須としないことは既に述べてきた通りである。基礎的なプルークボーゲンが身に付いた後、シュテムターンを習得することは技術的にカービングスキーでのパラレルターンに移行することには繋がらない。そこで、ハの字を維持しながらスタンスを狭ばめ、『上下動』、『角付け』及び『ひねり』の基本動作を加えるプルークターンを行う(Fig. 16)。外足荷重のプルークボーゲンと異なり外足荷重重視を維持しながらも、外足の内エッジと同時に内足の外エッジを使ってターンを行えるようにする。スタンスはハの字であるがパラレルターンと同じスキーの運動要領なので、スタンスが狭まり左右のバランス軸の移動量が小さくなってくると容易にパラレルターンに移行できる。プルークボーゲンからプルークターンに移行する時点の技術的ハードルがやや高く、プルークターンからパラレルターンへの移行は比較的易しいと言える。
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10. 結論
以上述べてきたように、『上下動』、『角付け』及び『ひねり』の3つの基本動作によるコンビネーション運動を身に付けることでカービングスキーを自在にコントロールできることが理解・習得できれば、斜度、雪質といった滑走状況に応じてこれら動作・運動を調整・調節しながら、誰もがこれまでより容易にスキーを高次元で楽しむことが可能となるだろう。そしてこれらは、従来提唱されている様々な上達方法より優れてシンプルで理解しやすくかつ包括的である。
参照文献
1)中川喜直,相原博之,山本敬三,竹田唯史.スキーターン中の荷重イメージと足圧荷重‐SLオープンゲートのケース‐.日本スキー学会 2014年度研究会講演論文集. 2014,p.14‐17
2)社団法人日本職業スキー教師協会(SIA).The Ski Book SIAオフィシャルメソッド.株式会社山と渓谷社.2003,p.1-159
3)社団法人日本職業スキー教師協会(SIA).トッププロ・SIAデモが教えるスキーの基本.実業之日本社.2009, p.1-144
4)財団法人全日本スキー連盟.日本スキー教程 指導実技編.スキージャーナル株式会社.1999
5)池添冬芽,市橋則明,森永敏博.スクワット肢位における足圧中心位置の違いが下肢筋の筋活動に及ぼす影響.理学療法学.2003,1,p.8-13