カービングスキーの論文(第6回)
スキーの基本動作とカービングターンに必要な運動要領の提案(Version 1.1, December 2024)
今回は、
8. 考察1:スキー滑走への適用例で、その前半部分に当たる、8.1 左ターンの始動~前半(谷回り): 『上下動』(伸上り) + 『角付け』 及び 8.2 左ターン前半~中盤(谷回り~山回り): 『角付け』 → 『角付け』 + 『上下動』(沈み込み) + 『ひねり』 となります。
お楽しみください。
8. 考察1:スキー滑走への適用例
本章では斜面上での実践的なスキーを想定して、左ターンを例に取りその導入から次の右ターンへの切り替えまでの過程において、3つの基本動作とそのコンビネーション運動、身体や両足の(左右)バランス等をもう少し掘り下げて考察したい。繰り返すが、遠心力の働いていない平地で再現する際は、ニュートラル状態(後述)を除き終始内足により多くの荷重がかかる。一方、実際のスキーでは、両足の荷重バランスがスキーの基本となる外足荷重重視とするべく、身体の重心に働く遠心力を大いに利用している(9章にて詳述)。
両足の山側のエッジを立て横滑りしないようにし、斜面に対して横、あるいは斜めに立つと左右の足に段差が生じる。この時、スキーブーツの構造上足首の前傾角度に制約があるため、両足に自然と前後方向の差も生まれる(スキーの前後差、Fig. 9)。この結果、両膝頭を結ぶ線及び骨盤(股関節)の向きも斜面斜め下方向に傾く(下半身の外向姿勢。必ずしも両膝の線と骨盤の向きは平行にはならない)。斜面に横あるいは斜めに立つ限り、腰を回してスキーの長軸方向に上半身を向けても下半身にはこの(最小限の)外向姿勢が自然に現れ、これが下半身の基本姿勢の重要な構成要素となっている。スキーのターンでは切り替え時に両足が揃う瞬間を除いてターンのどの局面においても、この両足に生じる高低差に起因する下半身の外向姿勢をそのまま維持する必要があるが、それ以上(あるいはそれ以下)に意図して外向を強める(弱める)必要はない(外向を強めるとスタンスが前後に広がることになり効率的な『ひねり』動作を阻害する)。
8.1 左ターンの始動~前半(谷回り): 『上下動』(伸上り) + 『角付け』
静止状態で平地に立つ場合と同様、直滑降(『角付け』を開始する直前のニュートラル状態)では両足均等荷重である。一方、Fig. 10のように滑走中に斜面を斜めに横断しながらターンを始動する(あるいはターンを切り替える)ケースでは、切り替え時の(遠心力のかかっていない)ニュートラル状態(Fig. 10-1)において斜面に垂直に立っている(バランス軸は斜面に垂直である)ので、既に内(左)足により多くの荷重がかかることになる(Fig. 11参照、スキーグラフィック2020年2月号付録より画像切り出し)。ここから『角付け』を開始するとバランス軸が谷(左)側に移動し、内足には更に多くの荷重がかかる(Fig. 10-2)。ニュートラル状態では、Fig. 11のように斜面形状との関係で外(右)足の方が内(左)足より高い位置関係にあり、かつスキーの前後差はなく、従って下半身の外向姿勢も生じていないスキーに正対した姿勢となることにも留意したい。『角付け』を開始すると同時に、スキーの回旋が始まり(谷回り)遠心力が働き始め、これに対応(バランス取り)して身体がターン内側(左側)に傾いてきて初めてスキーに前後差が生じ、下半身の外向姿勢、更には外傾姿勢が表れることとなる(Fig. 10-3)。それと共に、この遠心力によって外足の荷重割合を高めていくよう荷重バランスを調整することが必要となる。
8.2 左ターン前半~中盤(谷回り~山回り): 『角付け』 → 『角付け』 + 『上下動』(沈み込み) + 『ひねり』
Fig. 12は『角付け』 + 『上下動』 + 『ひねり』動作の山回りでの場面を図示したものであるが、谷回りでもフォールラインを向いていても、既に遠心力に対応して身体を傾けているため同様にスキーの前後差が生じており、動作そのものはこれと同じである。実際のスキーでは外足荷重重視のバランスを取るので、バランス軸は右足の足圧中心寄りに位置するはずである(両足で捻るので基本的に内足にも荷重はかかる)。
『ひねり』(+「上下動」)により、1)スキー(の前半部分)を効率良く回旋することが可能な上、2)スキーへの加重によってスキーを撓ますことができ、縦ずれによる減速要素も相俟って回転半径をより小さくすることが可能であるし、3) スキー(後半部)のエッジを雪面により食い込ませることでスキッディングせず、様々な回転弧のカービングターンが可能となる。
ターン中両足の前後差に伴い下半身の外向姿勢は維持しつつも、ターン前半の『ひねり』によってターン方向に下半身が(わずかに)内向する動きに伴って、上半身も追随して内向するが、ターン後半の上半身は、スキーに正対する(ロングターン)、あるいは、(次のターンへの先行動作として)フォールラインに向ける(特にショートターン)のが基本となる。