カービングスキーの論文(第5回)
スキーの基本動作とカービングターンに必要な運動要領の提案(Version 1.1, December 2024)
今回は、6.『角付け』と『ひねり』のコンビネーション動作 と 7. 3つの基本動作とターンの関係 です。前回(第4回)に引き続き今回も本稿の核心部分を解説していますので、じっくり吟味していただきたいと思います。お楽しみください。
6. 『角付け』と『ひねり』のコンビネーション動作
直立姿勢では両膝・股関節は角度にしてほんのわずかしか捻ることができないが、スキーの基本姿勢を取り『角付け』した状態で『ひねり』の動作を加えると捻りの量(両膝及び骨盤の向き)を少し増やせるので、これをコントロールできるようになる(Fig. 8)。これは恐らく膝・股関節を屈曲することで股関節の様々な動きも利用できるからである。足首・膝・股関節を深く曲げるとより大きく捻ることが可能となる。
即ち、『ひねり』量の大小でスキーの基本姿勢における高さがほぼ一義的に決まってくると考えてよい。『ひねり』が、『上下動』を行う最も大きな動機付けにもなっている。左右への大きな『ひねり』量を必要とするショートターンでは低い基本姿勢を取らねばならず、他方、相対的に小さい『ひねり』量で済む(ロング)ターンではより高い基本姿勢を取ることができるということである。足首・膝・股関節を深く曲げた低い姿勢を取るショートターンでは、結果としてこれが瞬間的で強い雪面からの反発・反動を受けた際に膝・股関節を使った吸収動作を可能としている。
バランス軸を中心に『ひねり』動作をするというのは両足で身体を支えた(立った)状態のまま両足を同時に同量(但し逆方向に)操作するのであるから、両足荷重しているとも表現できよう。片足荷重と比べて足場は遥かに安定しスキー滑走時の身体バランスが向上する。逆に言うと足場が安定していなければ『角付け』+『ひねり』動作を的確にすることができない。外足にしろ内足にしろ、片方ずつ別々に捻ろうとすると、反対の足を軸にして捻りかねず、それだと両足を連動してバランス軸を中心とした回旋を行うことができない。スキーがシェーレン状に開くとか外足だけが強く回り込んだハの字姿勢や外足のみ深く傾けたX脚が現れるといった、両足の別々な(バラバラな)動きが見られなくなるのが、この『ひねり』動作の利点でもある。また、この動作は主として両足の前後方向の運動(入力)で構成されるため、下半身の各関節への負担も小さいといえる。
ターン時に「内足を引く」、「内腰を引く」とか「外腰を外旋する」といった表現での指導・アドバイスが見られるが、これは捻る時に外足は前に押し、内足は後ろに引くという動きの一面だけを切り取ったものであって、あくまで両足で同時に行う『ひねり』動作として捉える方が動きとして単純かつ合理的である。
7. 3つの基本動作とターンの関係
これらの3つの基本動作とそのコンビネーション運動をスキーのターンをイメージしながら平地で行うとスキーの為の極めて有効なエクササイズとなる。ここではターンを1)ニュートラル状態、2)ターン前半(切り替えから谷回り)、3)ターン中~後半(谷回り後半から山回り)の3つの局面に分け、左ターンを行う。
1) ニュートラル状態は、スキーの基本姿勢を取り、両足均等荷重で立った状態である(Fig. 5)。
2) ターン前半では、まず、内足に2、外足に1の荷重割合となるようバランス軸を鉛直に保ったまま『角付け』する(Fig. 5)。この時、ターン始動時なので『上下動』によりわずかに伸び上がり、スキーの基本姿勢を高めに取り “内足アーチ”を行いながら左に『角付け』したい。この高めのスキー姿勢は、たとえその前のターンの切り替えがベンディング(抱え込み)によるものだったとしても必ず取らねばならない最も重要なターン始動時の基本姿勢である(6章で述べた通り、ショートターンとロングターンでは基本姿勢の高さに違いがあることに注意)。
3) ターン中~後半では、『角付け』を維持しつつ足首・膝・股関節を曲げながら(『上下動』(沈み込み))、両足を同時に使って強く捻る(『ひねり』、Fig. 8)。平地では両膝頭を結んだラインと骨盤の向きは平行を保って左に向くので、下半身に(わずかな)内向姿勢が表れる(後述するが、実際のスキーではこの内向姿勢は明確には表れない)。この『ひねり』動作がターン前半から中盤のキモ(核心部分)であり、スキーの方向及びターン弧を決定付ける。スキーがフォールラインを向く前から『ひねり』動作によってスキーに荷重をかけることができる。基本姿勢はターン始動時より低くなり、『ひねり』量に応じて適正な高さが決まる。この間、両足とも側部にある足圧中心は前後方向のセンターポジションをキープする(このエクササイズではターン後半のセンターポジションから踵への荷重位置の前後方向の移動は行わない)。
1) 『ひねり』+『角付け』を解き、再び両足均等荷重のスキーの基本姿勢(ニュートラル状態)に戻る。
以上の1)~3)の動きを繰り返し行い、動きのリズムに変化を加えることで、スキー滑走中の様々なターンのイメージとその際必要な動作とを同調させ、雪上でなくともスキー技術の向上を図ることが可能である。