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カービングスキーの論文(第2回)

スキーの基本動作とカービングターンに必要な運動要領の提案(Version 1.1, December 2024)

前回の続きで、今回は 序文 と 1. カービングターンの原理 ‐ スキーに何が起きているのか? となります。是非ご覧ください。


スキーは楽しい。レジャーとしてもスポーツとしても。自然の雄大さ・爽快さを存分に満喫しながら、同時に自然にチャレンジできるスポーツなどそうそうあるものではない。そして、ある程度以上の技術を持って自在に滑ることが出来ればもっともっとこのスキーを楽しむことができる。
これまでは限られた上級者の特権であったが、それはより効率的にスキー技術を向上させられる体系だった技術論が存在しなかったことが主たる原因である。スキーの運動要素をどのように分解し整理すれば、容易に修得可能なスキー技術論に仕立て上げられるのかが、カギとなる。本稿はこれらを明示し提案することを目的としている。
スキーにおける上級者と初・中級者の最も本質的な違いとは何だろうか。諸説あろうが筆者の考えでは、スキーヤーが滑走中に、重力や遠心力等、スキーと身体にかかる力とのバランスを取りながら、常にスキーに自在に力を働きかけこれをコントロールできる者が上級者である。初級者ほどスキーの上で意図した通りに身体を動かすことができず、自由度のないスキー滑走しかできない。
スキーは傍から見て身体をどのように動かし、どう入力しているのか(要するにどの筋肉をどう動かし緊張・弛緩させているのか)が分かり難い。上級者ほど動かしているはずなのに逆に静止しているかのように安定して見える。スキーブーツによって足首の動きが大きく制限されることもその理由の一つであろう。この身体の動き・動かし方を明らかにすることが、スキー操作を解説する上で極めて重要である。
『上下動』、『角付け』及び『ひねり』という3つの基本動作方法とそのコンビネーション運動は、加重・抜重といったスキーヤー自らがスキーを通じて行う雪面への働きかけや、スキーを回旋するための能動的動作といえる。一方で「左右への身体の傾き」は、殆どの場合、スキーが旋回する時に身体にかかる遠心力に対応して取る、言わば受動的な(バランスを取る)動作であり、先の能動的動作はこれと区別して論ずることが可能であると考える。
一般にスキーの足元(真下)に力(体重)を乗せるのが良いと言われる通り、遠心力の大小に関わらず、バランス軸上に荷重がかかるよう足元にしっかり体重が乗り、荷重をかけたり抜いたりできることが、バランスの良いスキー操作に必須であることから、本稿では、まずは平地でこの能動的動作を行い、遠心力による影響を排除し左右への傾きを考えずにシンプルな動きの検討・考察を進める。スキーをしていない時でもこれら能動的動作方法をいつでも簡単に実践することが可能であり、一連の動きを習得できれば実際のスキーにおいても両足が同調した自在なカービングターンが可能となる。また、スキーブーツを履かずにこれを実践するとスキーをしている時よりもオーバーアクションとなるので、これら運動の意味・意義をより深く理解することができることを補足しておきたい。
尚、本稿では骨盤から下を下半身と呼ぶ。一方、腰椎(以下腰と呼称)は、骨盤とは独立して可動(屈曲・回旋)するので上半身に属するものとし、骨盤とは意図して区別する。スキーでは、下半身を使った運動によりターンを行い、上半身はそのための補助(補完)動作を担う。決して上半身からターンを開始(ローテーション)しないことが肝要である。

1.カービングターンの原理 ‐ スキーに何が起きているのか?
本題に入る前に、現代スキー技術を代表するカービングターンの原理(仕組み)について以下に概説する。これを定性的に理解しておくと、『上下動』、『角付け』及び『ひねり』という3つの基本動作とそのコンビネーション運動がカービングターンにおいて如何に有効か理解する上で大きな助けとなるであろう。
Fig.1は、典型的なカービングターンの軌跡である(スキーグラフィック2022年11月号付録より画像切り出し)。この軌跡は2本の細いレール状にはならず、ターンマキシマム(最も強くエッジングしている時)に最も太くなる三日月形を呈する。三日月の外側の弧(青色)はスキーの後半部((足元からテールまで。以下テール)のエッジの軌跡であり、内側の弧(赤色)はスキートップのエッジの接雪部の軌跡である。青色と赤色の間は、主としてスキーの前半分(足元付近からスキー先端まで)が撓みながら、進行方向・縦方向にずれる(これを縦ずれあるいはForward slipと呼称)ことで雪面を彫った(Carving)跡と解釈できる(Fig.2)。スキーテール部は、前半部に比し撓みが少なく、したがって縦ずれ量が小さく、テールの回転半径に沿ったターンを描く。エッジが雪面に食い込むため、横ずれ(スキッディング・テールスライド・Side slip)を生じさせることはなく、それ故にターン後半の安定性・キレに大きな影響を及ぼす。対してカービングスキー以前のノーマルスキーではスキー前端を軸にスキー後半部を横ずれさせてターンしており、カービングターンとはターンの仕組みが大きく異なる。

Fig.1
Fig.2


カービングターンではこの縦ずれを利用してターン弧とスピードを調整する。要するに、スキーをより大きく撓ませ三日月の円弧を小さくかつ太いものにすれば、横ずれを誘発せずに、より大きく減速(スピードコントロール)でき、ターン弧もより深くすることが可能になる、というわけである。逆に撓む量を最小限にすれば三日月が細くなり、いわゆるレールターンと呼ばれる2本の平行な細い緩やかな円弧のシュプールを描くことができる。これらが、踵を外に押し出してスキーをスライドさせる横ずれによってスピード・ターン弧を調整する、プルークボーゲンなどの低速での滑りとは明確に異なることが分かるであろう。
また、Fig.1に見られる通り、殆どの場合、カービングターンでは2つの三日月型の軌跡が形成される。外側の三日月は外スキーの内エッジ、内側の三日月は内スキーの外エッジによる軌跡であり、要するにこれが意味するところは、カービングターンは外足だけでなく、両スキーに荷重して行っているということである。トップスキーヤーがSLやGSのオープンゲートを滑っている際、両足にどれくらいの割合で荷重がかかっているのか測定したデータがある(例えば中川(2017))。これよると滑っている本人が90~100%外足に荷重しているイメージを持っていても、荷重割合の実測値はターン全体を通して外足50~75%だったとある。要するに、カービングターンにおける外足荷重の適正比率とは50%~80%くらいと考えるべきであろう(以下、これを外足荷重重視と呼ぶこととする)。したがって、どのようなレベルのスキーヤーであっても体感できる通り、スキーにおいて外足荷重は基本中の基本技術ではあるが、それは必ずしも100%外足に荷重する(外足1本で滑る)という意味ではない(だからと言って、外足1本に乗る技術がとても重要であることには変わりはない)。

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