LIFULLが取り組むプロダクトマネジメント&賃貸プロダクトにおけるグロース事例(後編)
※この記事は 2023/06/23 に行われた株式会社DearOne主催のGrowth Leaders 2023でLIFULLの大久保、水野が登壇した「LIFULLが取り組むプロダクトマネジメント&賃貸プロダクトにおけるグロース事例」の講演内容を再編集したものです。
前編はこちら
LIFULL HOME’S賃貸について
LIFULLの水野と申します。
賃貸プロダクト責任者、プロダクトマネージャーをしています。
ここからは「LIFULL HOME'S賃貸プロダクトにおけるグロース事例」についてお話しします。
まず、LIFULL HOME’S賃貸の紹介をさせてください。日本最大級の住宅サイト「LIFULL HOME’S」で、賃貸の住まいを探している人向けのサイトです。
PC、SPとも「使いやすさNo.1」をいただいていたり、
特許取得で他ポータルサイトにはない機能、
例えば2Dの間取り図から3Dに起こして部屋をウォークスルーできたり、通常ですと「必須」しか設定できない条件の絞り込みが、「できれば」というあいまいな条件でも絞り込みできるといった、希望の物件に出会いやすくなる機能もあります。
ユーザーにとって使いやすいプロダクトになるよう、日々開発をしています。
では今から、この3つのアジェンダでお話します。
Amplitude導入によって激変したLIFULLのグロース
LIFULLでは、プロダクトマネジメント改革に合わせ「アナリティクスの刷新」も行っており、Amplitudeというプロダクトアナリティクスツールを導入しています。
アウトプット・アウトカムが激増
導入後、何が起きたかというと、アウトプット・アウトカムが激増しました。こちらの数字は、同程度のチーム規模における、Amplitude導入前後半年で比較したものです。
市場学習回数:仮説検証した数は1.5倍
施策成功率:ABテストをして勝った割合は2.8倍
創出コンバージョン数は10倍
になりました。
これはやってみた私たちにとっても、驚きの結果でした。
なぜこういうことが起きたかというと、
一番大きな変化として、「課題発見の方法」が変わりました。
Amplitude導入以前はアクセス解析ツールを使用していました。アクセス解析ツールは、施策観点が「最終コンバージョンを上げる」施策になります。
問合せフォームやCTAボタンなど、最終コンバージョンに近い課題をやりがちで、施策の幅・アイデアがなかなか広がりませんでした。
また、ユーザーがどのような行動を何回すると重要指標が上がるかという、いわゆる「マジックナンバー(※)」に関しても見つけづらかったです。実際、私たちのチームでも複数人で数日かけて出してみたこともありましたが、確信を得づらい数字で、果たして本当にそこにリソースをかけ続けてよいのかと悩んでしまうような状態でした。
また、ある施策をやってうまくいかなかったら、次の課題解決にうつってしまい、施策が単発になりがちでした。
それが現在、プロダクトアナリティクス、Amplitudeを導入したことで、施策の観点は「最終コンバージョンに圧倒的に貢献している手前の行動を上げる」施策に変わりました。
手前の行動はたくさんあり、施策の幅が広がりますし、「この行動をしているユーザー体験を向上させるには」といった視点で案出しをするのがとても考えやすいです。
また、Amplitudeをお使いの方はよくご存知の通り、そうした「手前の行動」が本当に瞬時に出せるので、このスピード感が素晴らしいと思っています。
もし「手前の行動」が期待通り動かなかったとしても、Amplitudeではその行動周辺の分析がすぐにできるので、知見を得られ次の仮説を立てやすいということも特徴的でした。
みんなもう、過去には戻れない、戻りたくない、と言っているくらい、劇的な変化です。
課題発見~アウトカム創出までの5つのステップ
賃貸プロダクトのチームは複数あり、各チーム、エンジニア、デザイナー、サービス企画と3つの職種メンバー混合で結成されています。
課題発見からアウトカム創出までのステップは、大きく5つあります。
「圧倒的に貢献している手前の行動」を特定
各種調査・分析
得られたデータを元に、3職種で仮説を立て、施策実施、ABテストを行う
テスト完了後、各種指標を確認
最後に3職種で共有、結果を元に議論し、次の仮説立てへ移る
具体的に見ていきます。
①「圧倒的に貢献している手前の行動」を特定
手前の行動を特定するには、Amplitudeですと、たとえば「エンゲージメントメトリックス」という機能を使って簡単に導き出すことができます。
その中で、ユーザー行動と結びつけながら、取り組む行動を決めます。
例えば、「問合せフォーム閲覧」という行動がこのメトリックスの中にあったら、「これは当然だよね」で検討から外したり、
「この行動はユーザーテストでもよく見るし、ユーザーの検討度を上げる行動だね」「確かにこの行動が増えたら、ユーザーは希望物件が見つけやすくなるかも」なんて会話をします。
今日は具体的な事例でお話したいのですが、特定の行動名をお話しするのは社内情報の取り扱い上、難しいため、特定した行動名を「行動A」と名付けて、説明をしていきます。
②各種調査・分析
次のステップが、各種調査・分析です。
伸びしろの確認としては、
「行動Aをするとしないとで、最終コンバージョンへのCVRってどれくらい違うの?」→「5倍も違うんだ!」
がわかったり、
「今行動Aをしている割合は?」→「3%しかない、少ない…」
ということは、伸びしろがとてもある行動、とわかります。
また、ユーザー理解を深めるために、行動Aは特にどのページでよく発生しているのかを確認し、「4箇所くらいあるけど、ボリュームがあるのはページCとページDだな」を把握します。
行動Aをしている過去のUXリサーチ結果を探しに行き、ユーザーの観察をします。「このあたりで迷っているのか」「このタイミングでよく行動Aをしているんだな」を定性的にも確認します。
最後、過去の社内施策を探しに行き、「そういえば、以前も似たような施策をしたはずだけど、結果はどうだったのかな」「前回は行動Aの数は増えたのに、最終コンバージョンは減ったのか、どうしてだろう?」と深掘りしていきます。
③3職種で仮説立て→施策実施
次は、3職種で仮説立てします。
例えば「前回の結果は、行動を促すタイミングが悪かったから、最終コンバージョンが下がってしまったのかもしれない。だから今回はこういうタイミングでやってみよう」「このページでは他にも重要な行動があるから、その行動を阻害しないようにするにはどうしたらいいか」といった話をします。
話しているうちに、「ここの数字はどうなっているんだっけ?」といった疑問も出てくるので、その場でさっと求めたりもします。
このような形でエンジニア、デザイナー、サービス企画、それぞれの職能観点でアイディア出しをワイワイとしていきます。
ここが前半で大久保がお話したプロダクトマネジメントが生きてくるのですが、3職種で上流から会話をしているので、アイディアの幅も広がりますし、その後の動きがとても早いです。
例えば、デザイナーが「さっき話していたのは、こんなイメージで合ってる?」とデザインをすぐ作ってくれたり、エンジニアが「仮実装してみたけど、動きのイメージはこれでいいかな?」とスピード感ある進め方ができます。
上流から、同じ課題を定量・定性的に共有できているからだと思います。
この後、ABテストを実施します。
④各種指標の確認
ここからはABテスト完了後の動きです。最終コンバージョンや狙ってた「手前の行動」、その他各関連指標をAmplitudeで確認します。
今回は「手前の行動」はプラス10ポイントアップ、最終コンバージョンもプラス2ポイントアップというヒット施策になりました。
分析した結果、今回は、行動Aがアップしたのは、「0回目→1回目の行動、初回行動を動かせたからだった」ことや、「他のエンゲージメントの高い行動も併せてアップした」こともわかりました。
なお、今ご紹介したのはうまくいった例ですが、逆に「手前の行動」は上がるが、最終コンバージョンは下がってしまうことは、とてもよくあります。
この場合も深掘りをしてセグメント別に見ると、「特定のユーザーには悪影響だったからなんだ」といったことがわかり、「次はこれらのユーザーにとって良い体験になる施策を考えよう」というように取り組んでいます。
⑤3職種で共有・議論し、次の仮説立てへ
最後、3職種で次につなげる動きです。
実はABテスト中もAmplitudeのレポートを作って、Slackでワイワイしています。例えば「狙った行動が伸びているかどうか」だけでなく、「この数字も見たいね」といった話が他の職種から出てきたら、「出してみたよ、ここも変化してた!」等のやりとりがあったりします。
皆が集まる場として「クロージングミーティング」と呼ばれる会議を設けており、得られたデータや考察をサービス企画から共有し、3職種でワイワイします。
このときは「今回はうまくいったので、この行動をもっと増やすにはどうしたらいいか」「次、こういうアプローチを試すのはどうだろう?」などといった会話をし、次の施策が生まれました。
以上が具体的な流れになります。
再掲になりますが、プロダクトアナリティクスを導入し、素早く必要なデータを導き出せるようになったこと、3職種上流から協力して施策を生み出すプロダクトマネジメントにより、このような劇的な変化が生まれました。
グロース施策分析と好循環サイクル
次に、「グロース施策の分析と好循環サイクル」についてお話します。
LIFULLでは「知恵の循環」と呼んでいる、いわゆる組織のナレッジシェアのお話です。
マクロの視点で変化に気づき、良い動きを横展開
市場学習回数が増えることによって、知見がたまりやすくなり、マクロの視点でこんな比較もできるようになります。
例えば、同程度リソース・チーム数という前提で半年ごとに比較していくと、市場学習回数がアップしていることがわかりました。先ほどお話しした1.5倍ですね。
どういうプロセスを変えたからなのかを振り返り、今後もKEEPしようとなります。このときは、プロダクトマネジメントとプロダクトアナリティクス導入が要因でした。
また、同時期のチーム同士で比較することもあります。例えば、チームAと比べて、チームBの方が施策の成功率が高いというデータが出たことがありました。この要因を振り返って、他チームにも横展開します。
こういったマクロの視点で振り返りをすることによる気づきとしては、定点観測することで「日々の健康診断ができ、特徴的な動きの検知ができること」が挙げられます。
自分達のチームが「月に何本市場学習回数をしていて、成功率がこれくらい」というベースができると、そのベースを維持できていたら、私たちの活動はうまくいっている、と判断できますし、ベースを上回っていたら、成長を実感し、モチベーションにつながる、ということもわかりました。
ただし、気を付けなければいけないこととして、市場学習回数以外は結果指標であり、成功率や創出コンバージョン数自体を伸ばそうとはしない、ということです。
というのは、例えば成功率を上げることに固執してしまうと、確率が高そうな施策しかやらなかったり、必要以上に時間を使って確率を高めようとしたりと、市場学習回数が少なくなるためです。
あくまでもコントロールすべきは市場学習回数であり、「打席に多く立って知見を多く貯める」ことをプロダクトチーム全体で重視しています。
事例:「おかわり施策」の成功率は高い!
ここで、「同時期のチーム同士で比較」したときの事例を一つお話します。
「おかわり施策」の成功率は高い、というものです。
「おかわり施策」とは弊社の造語で、過去施策の結果を受けてリトライすることです。施策がうまくいかなかったときに、得られた知見を元に再チャレンジしたり、うまくいった場合は「もっと上げるには」を考えたり、横展開として「他のデバイスでもやろう」というものを私たちは「おかわり施策」と呼んでいます。
新規施策とおかわり施策では、施策成功率が1.2倍違いました。前回の知見を活かして次の施策を考えているので当然といえば当然なのですが、こうやって数字で出てくると安心につながりました。
ABテストを行うとき、「負けたらどうしよう」とドキドキしますよね。そのとき、「初回だから負けたとしても当たり前、もう一度やったら確率が上がる」というデータがあることで心の余裕もできますし、むしろ「1回だけでこの施策を終わらせたらもったいない」という気持ちにもなってきます。
ちなみに、先ほどお話した、チームBの施策成功率が高かったのは、おかわり施策をちょうどたくさんやっていた時期だったからでした。
逆に、チームAは、その前の半年でおかわり施策をたくさんやっていたので、この半年では新規施策が多めの時期だったから、というのもわかりました。
気づきとしては、こういった成功パターンを頭に入れておきながら、施策を組み立てていくことは有用であること、ただし、おかわり施策だけでなく、新しい施策・仮説検証をやっていく必要もあるのでバランスだな、ということです。
アウトカムを全社へ広げるために
LIFULLでは、賃貸プロダクトチームだけではなく、アウトカムを全社へ広げる動きもしています。
各プロダクトチームの施策から生まれるアウトカムをピックアップした「アウトカム通信」
プロダクト部門の総会で、成功・失敗事例の共有
部署横断でグロースチーム間の知見共有会を定期的に開催
過去施策を検索できる施策データベース
等です。知見共有会では、例えば「今回のこの施策、この行動数が上がらなくて」といった話をすると、他のマーケットの人から「似たような施策をうちのマーケットでもやったよ。同じ課題があったけど、こういうふうにしたら良くなった」というようなアドバイスをもらえたりします。
こういったアウトカム事例が社内にあふれてくると、他マーケットやデバイスで横展開がなされるようになります。
ここでまたAmplitudeの良さがあるのですが、元施策のレポートを参考にして効率化も図れています。
Amplitude活用TIPS
最後に「Amplitude活用TIPS」です。
今回、賃貸メンバーに、どのように活用しているかを聞いたところ、たくさんアイディアをくれたので、いくつか紹介します。
まずAmplitudeを一言でいうと、「みんなでワイワイできるツール」です。複数人で分析の深堀りができ、意思決定の材料にできるのがすばらしいなと。
Amplitudeの特徴として、
データがすぐに出せる
レポートの設定内容がすぐにわかる
設定を変更する度にURLがユニークになる
他の人が作ったレポートを気軽に編集できる
が挙げられます。
そのため、作ったレポートをすぐ共有できて、みんなでワイワイできます。
例えば、設定内容で間違っていないところはないか、確認してもらえたりします。
実は、Amplitudeを用いて作成したレポートは、みんな最初から確信を持って出せているわけではないのです。
特に初めて出すデータのときは、合っているか不安です。レポートのURLをSlack等で共有すると、他の人が設定内容を見て「合っているよ」「こういう設定を加えた方がより良いかも」などといったアドバイスをくれるので精度アップすることができ、日々Amplitudeのスキルを上げようとしています。
これ以外にも「このユーザーの課題を定量的に求めるんだったら、別のレポートも出せるかも」と他の人が出してくれたものを見てみると、思わぬ発見があって、今やっている施策ではなく、別の施策につながることも多いです。
また、他職種との相談時にも使えて、例えば「実装方針をどうしよう」と数字を元に判断したいとき、すぐにレポートを出して共有し、「この規模の数なら、この実装がいいね」といったやりとりをしています。
最後に、細かいTIPSを3つ紹介します。
「他の人が作ったレポートを検索してアレンジする」は私自身、とてもよく使います。
「レポートを出したいけれど、出し方がよくわからない」ときに、Amplitudeの画面右上の検索ボックスにキーワードを入れると、社内の誰かが過去に作ったレポートがヒットするので、これは使えそうだというものがあれば、パラメーターだけ変更すれば必要なレポートが作れとても楽です。
また、ファネルで見たときに、「統計的優位性」の機能も便利です。ABテスト時、CVRの差が数字上はあったとしても本当に差なのかどうかの確認もしたく、ここをクリックするだけで出せるので重宝しています。
最後に、「ダッシュボード、ノートブックを使った共有」も優秀です。
テキストと一緒にグラフや表で可視化できるので説明が楽ですし、複数のレポートを一か所にまとめておけるのも便利です。
賃貸では同じ時期に複数のABテストが走っていることもあるので、各担当者が出したそれぞれのレポートを一つのダッシュボードにまとめて、共通認識を持つ、といった使い方もしてます。
説明は以上になります。
少しでも参考になれば幸いです。ありがとうございました。
登壇者紹介
賃貸プロダクトチームのメンバーによるnoteはこちら