
事業再生のこと−26
「いつでも動き続けているから、きっと大丈夫ですよ」
バブルが崩壊した頃にクライアントの担当者が言ってくれた言葉。
もう30年近く昔の話だけれど「確かにそうかも知れない」と今になって腑に落ちている。
●探し続ける
バブルが崩壊した時ほど迫ってくる不況を身近に感じたことはない。
毎日、すごい数の会社が倒産していった。
バブルの頃はどの企業も金あまりを起こしていて、税金対策のために外注プロジェクトの予算を拡大して下請けに投下していた。
日本という国の税金はとてつもなく高い。その税金をいかに少なくするかが企業の使命のように経費を増やすため湯水のように外注費を使っていた。
あの頃、大きな企業が起こした過ちは、自社でできていたはずの業務をアウトソーシングしはじめて、社内にあったはずのノウハウを外注することで失ってしまったことだ。
不況になれば外注費は削られ、仕事量はどんどん減ってゆく。
バブルの頃、小規模事業者であっても「こんなに収入を増やせるんだ」と皆が思っていた。仕事の量は無限にある。仕事をすればするほど稼ぐことができた。
でも「本当にこんな状況がずっと続くんだろうか?」とどこか心の奥で感じていたはずだ。
バブルの崩壊は急激だった。
たった二年で売上は半分になった。探しても仕事は見つからない。
一極集中は進み、関西と関東二箇所にあった本社機能は東京に一極集中した。まだネットのない時代。東京以外の地方の下請け会社はどんどん潰れていった。
企業は下請け叩きをしたというよりも、それまで下請けに発注していた仕事を引き上げて自社を守ろうとしたに過ぎない。
不況になれば企業は外注費を削り、自分たちの資産を守ろうとする。
同じことがまた起ころうとしている。
●どう動けば良いのか?
小規模事業者がどうやって生き残ってゆくのか?
手をこまねいて何もしなければ簡単に潰れてしまう。
経費を節減するには、
今している事業に関しては人件費を削減しなくてはならない。
でも自分たちの事業を支えてきてくれた人材をそんなに簡単に切り捨てることは出来ないとどの事業者も考えるに違いない。
生産事業や製造業は手間がかかり利益の率は低い。ましてや原材料費が高騰しインフレになりつつある時代にはさらに利益率が低下する。
不況の時代であっても生き残る事業は存在する。
一つは生活のインフラに関する事業。
つまり「衣」「食」「住」に関する事業だ。
ただし、これらの事業は大幅なコストダウンが必要になり、価格を引き上げることは難しくなる。
全ての関連商品は価格競争に追い込まれる。
人は家計を絞り込み、低価格商品に群がる。
そこからはデフレが始まる。
100均ショップが増え、マイホームの夢を諦めマンションに住み、安価な冷凍食品などで凌ぐ。
ただし、絶対的に必要なインフラ「電気」「水道」「公共交通」などは価格が引き上がり、そこから下がることはほとんどない。
インフレとデフレが繰り返されるのはそう言った仕組みからだ。
ただし、今回の不況はこれまでとは様相が違う。
つまり、以前の不況では日本のデフレを海外の後進国の安い労働力が支えていたが
今回の不況では日本そのものの労働力が安くなり、海外の後進国はもはや日本より大きな経済力を持ち始めているからだ。
日本は自国の労働力で生活インフラを支えなくてはならない。
●事業全体の見直しが必要
そして生活インフラに関する事業以外で生き残る可能性のある事業は
「仕入れ」を必要としない事業。
つまり「デザイン」「プログラミング」「アート」「企画」などのソフト産業だ。
ただし、国内企業はそれらに投下する企業体力を残していない。
だからそれらに関する事業は全て国外に向けて行わなくてはならない。
海外の事業体から仕事を受けることができれば事業を拡大できる可能性は高い。
では、それ以外の事業は指を咥えて見ているしかないのか?というと
そこからは知恵を使わなくてはならない。
ハードとソフトは一対。ただし、それぞれの技術を持った人材は別々に育成される。
例えば料理人は料理の技能を教育と修行によって身につける。
同じようにプログラマーもプログラミングの技能を教育と実践によって身につける。
お互いの技能に接点がないとしても事業構築として見ればそれぞれの技能は自分自身にはないものだけれど、もしも組むことができたならば可能性は格段に広がる。
ハードとソフトは一体化することで強力な武器になる。
ただ、その接点がこれまで少なかっただけだ。
web3にはこれらを繋いで新しい価値観を生む可能性がある。
日本の独自性のある技術と海外のシステム構築の技術を繋ぐことができれば新しい価値と可能性を生み出すことができる。
それこそが不況を勝ち抜き、どのような状況でも生き抜く事業を構築するヒントとなる。
●まずは世代を超え、国境を越えよう
日本が不況を乗り越えるには足りないものを補うしかない。
日本が持っていたのに失ったもの
「精度の高い加工技術」「真面目に取り組み細部にまで目を光らせる品質」
「若手を育成する技術の継承」→これらは年長者のベテランが保持している。
「デジタル技術が生み出す販売技術」「デジタル技術を構築する技能者」
→これらは若い人材と海外の人材が保持している。
「日本の製品の品質を認め購買するユーザー」「日本のソフトの価値を認め投資する投資家」→これらは海外のマーケットに存在する。
日本が不況を乗り越えるためには
●世代間の相互教育システムと
●海外の優秀な人材を協業して事業を生み出す機会
●アイデアを製品に仕上げるための投資の呼び込み
●生み出した製品を海外のマーケットで販売するルート
これらが必要になる。
小さな事業者にはハードルが高いかも知れない。
だからこそ、事業者同士の協力やノウハウの共有が不可欠なものとなる。
これまでの枠を取り払って挑戦しなければ時代は乗り越えられない。