100円のパンプス-2
「やっさん、これでええんか?」
私はやっさんに紙袋を手渡した。ゴソゴソと紙袋を覗き込んでやっさんが嬉しそうに声を出した。
「おうっ、これやこれや!ありがとうなさっちゃん」
「あのな、経理の私が横領なんてでけへんからな、私の給料から立て替えとくわ。あんまり無理言わんといてや。私かて毎朝6時に起きて弁当作って節約しとるんや」
「ああ、わかっとる、わかっとる。感謝してるがな。いつかこのお返しは必ずするがな」
「まあ、期待せずに待ってるわ」
夕方、仕事が終わって公園の反対側にある安アパートに戻るとき、いつもやっさんのテントの前を通るんや。テントの横に段ボールが置いてあって、どっかで拾ってきた薄汚れた靴や鞄が無造作に捨ててあるんやけど、なんかくり抜いたような跡や、一部が切り落としてたりする。まあ、元々ゴミの日に出してあったような代物みたいやけど、なんでそんなもん集めてるんやろ?
家のベランダから公園のやっさんのテントが見えるんやけど、時々コンコン音が聞こえてくる時があるし、朝、出勤する時にもなんや大きな袋を抱えてやっさんが出かけるのを見たこともある。
だいたいブルーシートの中で暮らしてて、たまに炊き出しに行ったりしてるみたいやけど、いつもどんな生活しとるんやろ?ブルーシートの隙間からちょっとだけ覗いたことあるけど、パソコンやら大きな机やら置いてあって、結構ホームレスにしては豪勢なもん置いとる。近くの電柱から電気はちょろまかしとるみたいやけど、どないして生計立てとるんやろ。
ほんま謎だらけやで、やっさんは。
・・・・・
お母ちゃんが行方不明になって、親戚のおばちゃんの家に居候してたんや。お母ちゃんの妹さんやけど、ほんまにようしてくれた。おばちゃんにも娘がいてな、愛ちゃんって言うんやけど、ほんまの兄弟みたいに育ててくれたんや。
「お父ちゃんもお母ちゃんも行方不明やなんて不憫でしょうがないわ」って言うて引き取ってくれたんや。おばちゃんの家は荒物屋で大抵のもんが揃ってた。
私が中学校卒業するまで愛ちゃんと私の分の学費まで払ってくれた。進学は奨学金もろて夜間の簿記学校に入ったんや。
その頃にな、私宛に手紙が届いたんや。
なんや三重県の鳥羽の方にある島の診療所からやった。ほんでな、裏みたら「朱美の娘さんへ」って書いてあったんや。朱美ってお母ちゃんの名前や。
中見たら「朱美さんは直腸癌が転移し療養中です。現在抗がん剤により治療していますが経過が思わしくありません。妹に預けた娘と一目会って謝りたいと言っておられます…」
社長に事情話して翌日上本町から電車に飛び乗ったんや。
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