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事業再生のこと−14

PRやブランディング、営業が上手くいって、ある臨界点に達すると売り上げは急激に伸び始める。
私たちが注力したのは「販売」そのものが「告知」や「認知」につながりやすい駅ナカでの催事出店だったが、催事出店場はユーザー層にとっては元々馴染みが深い場所で「あの場所では何か毎回新しい商品を買い物出来る」という習慣性があり認知されている場所だった。

それだけに、初めて催事出店をする事業者であってもある程度以上の売り上げを見込むことができる。だから、そういう事業者にとって最初のハードルは催事を7日〜14日間やり遂げるだけの生産量と人員の確保が出来る企業体力が必要だということである。

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例えば家の台所で作っていたマフィンが評判になって、台所を改装して保健所の申請が通って販売できるようになる。

そこで、1台だった家庭用オーブンを2台にして頑張って製造を始める。1個350円のマフィンを100個作った。この総額35,000円のマフィンをどこで売ろうか?すると近くの商店街でフリーマーケットのチラシを配っていた。申し込むと出店できることになった。喜んでどうせならと、国産小麦粉を売っている高級スーパーで小麦粉と発酵バターを入手。慌ててテントをホームセンターで買うと15,000円した。頑張って集客しようとチラシを近隣に100枚配った。

当日旦那の車でマーケット会場に行き設営をしていると顔馴染みのママ友も出店していて、彼女以外にも知り合いの顔がチラホラ。11時にいよいよオープンすると大勢のお客様がマーケットに押し寄せた。どんどんマフィンは売れて評判は上々。わざわざ来てくれた友達も美味しいと言ってくれた。昼は隣でママ友が販売していたお弁当を買った。夕方5時の閉店間際にはマフィンは残り二つ。そうするとお弁当を売っていた隣の友達が買ってくれ、マフィンは完売。

最後に出店料の15,000円を事務局に支払って撤収。

商品も完売したし、友達にも会えて、美味しいお弁当も食べて大満足。「また次も出したいね」友人とも約束して迎えに来た旦那とその場を離れた。

とても良い話に聞こえるけれど落とし穴がいくつもある。

完売したので売り上げは35,000円。マーケット出店の料金は10,000円。

買ったテントは15,000円。30回は使用することが出来るとして1回あたり500円に換算。昼に買ったお弁当が1,200円。

35,000円ー(15,000円+500円+1,200円)=18,300円

やった!18,300円も利益があった!この小遣いで明日ワンピースを買おう。それに友達とランチをしよう!

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これが商売をしたことのない人の考え方。

でもちょっと待ってください。

まず350円のマフィンの材料費はいくらでしょう?一般的に菓子などの商品の原価率は30%と言われているから105円が相場だけれど、高級スーパーの材料で120円かかってしまった。すると材料原価を引くと1個あたり利益は230円。材料総額は12,000円。

オーブンを2台使って電気代、水道代を合わせて1,300円。家の家賃は120,000円で準備にかかった2日分で換算すると8,000円。生活にも使っているので使用率を40%に設定しても3,200円。家のパソコンで作ったチラシのプリントアウトにインク代や紙代合わせて800円。

すると、

35,000円ー(15,000円+500円+1,200円+12,000円+1,300円+3,200円+800円)=売上35,000円ー経費34,000円=1,000円

さらに交通費や梱包費、旦那の人件費などの雑費を入れると赤字。

問題は 売上=利益ではない。という認識がないことだ。

全ての経費を引いて純利益を出さなくてはならない。経営者であれば常識の話でも片手間に趣味でしているフリマなどでの販売ではそこまで計算している人は少ない。

マフィン一つの純利益が60円の商売で純利益を35,000円あげるにはマフィンを580個以上製造して完売させなくてはならない。

事業を成功させるには常に純利益を意識しなくてはならない。しかもそれだけの売り上げを成立させる設備には大きな資本が必要で、それを減価償却することも含め、思った以上の経費が必要だと考えるべきだろう。

最近のマーケットでは20,000円近い出店料金を取ることも少なくない。基本的にマーケットイベントで本当に稼いでいるのは主催者だけということになる。商品原価以外の会場設営費や販売マージンなどの経費が全て催事への参加料金に含まれていると考えるべきで、主催者は本来マージンだけで利益を得ていると考える方が良い。

きちんと商売として成立させるためには原価率計算を材料費だけでなく全ての経費から計算し直し、出店経費が売上の25%以下になる場所を選ばなくてはならない。

最初に駅ナカ催事出店の商談をしたとき、1日の売上が20万円程度だといわれた。私たちの商品は当時500円なので400ピースの商品が必要になる。ホールで言えば1日あたり50ホール。それを7日間販売するので実に350ホールの商品が必要になる。クライアントの話は大手メーカーの良い時の売上を基準にしているので、実際にはその70%程度が標準値としても200~250ホールの製造量が必要となる。家庭用オーブン2台では到底生産性が追いつかない。

催事出店を可能にするには業務用オーブンが必要で、冷凍・冷蔵ストッカーが必要。人員も最低3名以上必要になる。

私たちの事業も最初その規模で始めた。しかし駅ナカ催事出店が年に3回から6回。6回から10回。現在は15回以上の出店回数になり、そこに通販、店頭販売、百貨店催事などが入ってくるとこれまでとは桁違いの生産力が必要となる。現在は厨房の従業員10名で、催事場の販売員が約4名(催事場ごとに確保)。多い時には業務用オーブン2台、6ドアの業務用大型冷凍冷蔵庫、冷凍ストッカーの設備で1日50台の商品を製造している。それでもすでに限界量に達していて、来年にはもう一つのセントラルキッチンが着工予定となっている。

事業規模が大きくなればなるほど、仕入額は大きくなり人件費も増大する。それまで計算していた原価率は上昇し、いつの間にか利益を出さなくなっている場合もあり、仮に利益を出していたとしても全ての経費は膨れ上がり回っていた資本は焦付きを起こす。利益を上げるよりも必要経費の方が早いスピードで増大する。利益を仕入れや設備投資に回すだけでは追いつかなくなる。それをあらかじめ見込んで資本をストックしておくか、新たに融資などで資本を補強しておく必要がある。もちろん並行して売上が伸びて融資の返済を履行しながら利益を出して、ストックも可能になる仕組みを作らなければならない。

事業が拡大することが経営を圧迫することを知っていなければ、事業の拡大が急激であればあるほど債務も膨れ上がってゆく。それをどのようにクリアするかを考えないと事業拡大は不可能だし、無理をすれば従業員は疲弊し、利益は出ているはずなのに黒字経営のままで倒産することもあり得るのだから。

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