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新世代に託す-4

時代が急激に変わる瞬間がある。
素晴らしい幸運と機会に恵まれた時代。
そしてとんでもない危機と災厄に見舞われた時代。
そのどちらも時代を急激に変える。

●バブルは幸運をもたらしカルチャーに活気をもたらした。

1980年代後半。いわゆるバブルと呼ばれた時代。
ただ好景気に沸いて、そのあと弾けて跡形もなく砕け散った時代。
バブルを知らない若者たちには伝説にもならず、
かつてそんな時代があったのだという記憶もない。
でも、あの時代を知っているものたちにとってはわずかな時間であったとしても
華やかで実りのある時代だった。

バブルといえばマハラジャのようなディスコブームや
不動産を転売して巨万の富を得たとか、遊びやバブル長者の話が多いが
カルチャーの側面においては様々な優れたブームメントを起こした。
その後の日本のカルチャーシーンを牽引するような才能が次々と生まれた。

先日亡くられた森英恵や三宅一生をはじめ、
コシノジュンコ、高田賢三などファッション業界ではDCブランドが台頭し、
安藤忠雄、糸井重里などの才能あふれるクリエイターが輩出した。
そしてLoftや無印良品、セブンイレブンは急成長し、不動の地位を築いた。
音楽業界ではテクノが生まれ現在シティポップと呼ばれる曲が続々と発表された。
それらは新しい試みとして提案され、人々にはそれらを受け入れる土壌があった。

思えば現在の我々のジャパン・カルチャーの基盤が築かれた時代だった。

●バブル崩壊がもたらした社会の変化


1992年頃、バブルは崩壊し、
多くの文化は生き残ろうと足掻いたがそれでも姿を消したカルチャーも多かった。
人々はバブルの頃に多額のローンやリース、設備投資を行い、その返済に追われ場合によっては破産しなくてはならなくなった。
ここから20年あまり、景気は低迷し、企業は負債の返済を続け、設備投資も新しい事業への取り組みもままならなかった。
急激にデフレが進み、世の中には100円均一ショップが溢れ、コンビニは24時間営業ではなくなった。

多くの人が失業し、正規雇用は減少し誰もが非正規雇用で働くことになった。
新しいカルチャーは生まれにくくなって、若者たちは未来に希望を持てなくなった。
バブルに踊らされず、堅実に資本をストックして備えていた企業だけが生き延びることができた。
この20年の間にかつての新興国の経済は成長し、ほとんど手を打つことが出来なかった日本との立場は逆転してしまった。
日本の政治家は学習せず、諸外国の学習した政府のように新しい産業を育てることが出来なかった。さらにバブルの時代に巨大化した企業は既得権を守ために経済に抑制をかけ、新規参入を拒んだ。
こうして公共事業だけが膨大に膨らみ、そこから得られる既得権益を守ろうとする勢力に抑えられ、新しい分野の事業は成長することが出来なかった。

●スタートアップの成長を促すと言っているけれど


政府はスタートアップを生み出すために公費を投下すると言っているが、
本当にそんなことができるのだろうか?
長期政権は公共事業頼みで維持してきたし、得票のみを目的とした企業との癒着が次から次へと明らかになっている。
政権に執着している限り、この国に変革は起こらないだろう。
年金頼みの高齢者は自分自身の既得権を維持するために政権の移動を拒み、既存の政権に変わる勢力も、同じ既得権内に存在して身動きは取れない。
政権内でクーデターでも起こらない限り、思い切った変革や規制緩和は起こらない。

僅かに芽生えはじめたスタートアップの蜂起も既得権益の森の僅かな隙間を縫うようにしか成長できない。
まずは多くの成長を抑制する縛りを解いて、既得権益者を押さえ込んで規制緩和を行うしかない。法制そのものが既得権益者を保護するために定められたものなのだから。
これまでのような時間をかけて審議を尽くして法制を改正するよりも、
スタートアップや新しい産業を育てるために「何が必要なのか?」を理解した上で公費を投下した方が良い。
そしてこれから新しい産業を始める若者たちに事業構築の学習の場を与え、人脈を与え、実業の場を与えなくてはならない。

●バブルは必要なのか?


現在はITバブルと言われている。
以前のように税金を投下された金融機関の融資よりも投資会社や投資家から資金援助を得て事業を起こす若者が増えてきている。
若い起業家は自分の起こした事業は拡大し成功すると考えている。
しかし、事業というのは必ずしも成功するとは限らないし、海外のように一度事業に失敗した企業に「再投資」するような社会システムは日本では希薄だ。
海外の投資家を頼り多額の投資を勝ち取っても、経営権の移譲や事業の売却、意図しない事業の停止、変更などが事業主の意図とは関係なく容易に行われる。
現在のITバブルの仕組みがそのような社会背景で起こっているのならば、その仕組みに組み込まれない事業の成長や拡大、変革は無いのだろうか?

あまりにマスコミやネット上で投資を受けて成長する企業がクローズアップされているゆえに、若者たちの起業への意識はその方向に向き過ぎているように見える。
かつてのバブルの頃に勤め人のOLや若いサラリーマンが不動産投資をして巨額の富を得たという話が持て囃されたのに酷似している。
事業計画の中での財務計画はとても重要ではあるが、時代は変化するという前提で、投資を受けなくても資本を調達する方法や、何よりも自分自身で稼ぎ出した利益を投資に当てるのが最も健全な経営であると言える。

投資を受けたり、資金調達が必要になるのは事業のスタートアップの時期ではなく、事業が軌道に乗って更なる拡大期に向かうためのジャンプアップが必要になる時期だと思う。
これまでは多くの企業が上場することで資金調達を行なってきたが、上場せずに、きちんとした事業計画の上で話し合った信頼のおけるキャピタルからの投資であれば考えられるのだろう。
バブルは夢想家の夢であって、企業としての目標ではない。

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