事業再生のこと−16
事業を始める前に充分な蓄えがあれば問題はないが、大抵の場合起業当初は潤沢な資金などないことが多い。
その少ない資金で何から手をつければ良いんだろう。
考えよう。すぐにはあきらめず、今何が出来るのかを考えよう。
オープンしたばかりのカフェで月の売上から経費を引くと1万円しか残らない。毎月そんな状態が続いて少しも楽にならない。
貯金に5000円、残った5000円では何もできない、と普通はそう思う。例えば手描きのチラシをコピーして1枚10円、100枚で1000円。500枚で5000円。
白黒のチラシを500枚配ったけれど、来てくれたのは噂を聞いて駆けつけた友達3人だけ。1000円のランチが3食で3000円。5000円の投資で3000円の売上。経費も引いたら赤字。
もっと他に方法は無かったのかな?
持っているパソコンにデザイン用アプリを入れて頑張って操作を覚えた。店舗やメニューの写真も撮って、カラーのちょっと見栄えの良いチラシをデザインした。街の印刷屋に持っていって1000部刷ったら幾らですか?と聞いてみたら15000円だと言われた。
そういえばテレビで安い印刷屋のCMが流れていたのをみたことがある。ネットで調べてみたら同じ1000枚のオールカラーの印刷で3500円。
なんてことだろう?頑張って努力して高いお金を払っていたのが嘘のようだ。でも一度プロのデザイナーにデザインを発注したら1万円請求された。やっぱり自分でデザイン出来なきゃだめだ。
試しに、1000枚のチラシを家族みんなで近所にポスティングしてみた。
お客様が30人来てくれた。
30人×ランチ1000円=30000円
3500円のチラシで30000円売り上げた。
お金がなくてもできることはある。ただ今までしてこなかっただけだ。
それからチラシを毎月1000枚づつ配り続けた。いつの間にかリピーターのお客様が着いてお店は順調に回り始めた。
ポスティング業者に頼んだり折込屋さんに頼むと莫大な費用がかかるから、自分でポスティングしよう。でもどこにポスティングすれば?
「あなたのお客様は誰ですか?」全てはそこが出発点。
「30代〜40代の女性が私たちのお客様です」
だったら、小さなお子さんがいるのだろうな。夫婦で働きに出てるのだったら小さなマイカーぐらい持ってるかな。新築のハイツやマンション、少し稼ぎがよかったら新築の一戸建てに住んでるかな?そんな家にポスティングすれば良いのかな?
Googleマップで見てみたら、駅から1キロほど離れたあたりに綺麗に整然と並んでいる住宅街があった。もしかして新興住宅地?そうだ、グーグルアースで周囲を見渡してみよう。やっぱり新しい家ばかりみたいだね。それにほら、移っている駐車場にミニクーパーと三輪車。小さな子供がいるみたいだね。ここはポスティング候補地。近くにバス停はないかな?うん、ここまでバスで行ってポスティングしよう。
調べてみるとお店まで至近距離に三箇所の新興住宅地。駅近にハイツが立ち並ぶ地域。朝早くに出かけて帰ってくれば開店時間に間に合う。私たちは毎週定休日を利用してポスティングをはじめた。
二人で回ると一人100枚ポスティングするのに40~50分かかることがわかった。でも逆に豪邸が並ぶあたりは一件ずつの敷地面積が大きくてそんなに沢山はポスティングできない。
試しにポスティンするチラシに仕掛けをした。
「このチラシをお持ちの方にクッキーをプレゼントします」
チラシの片隅にチラシをポスティングした場所がわかるようにA、B、Cとエリア分けしておいた。隣町のAは少なくて、Bは多め、駅近のCは沢山チラシが返ってきた。Cって大変だけど大きな豪邸のエリア。自分たちがターゲットだとしていた「30代〜40代のプチセレブな女性層」にピッタリと当てはまった。
全体の返還率は5%。これって多い?少ない?実はとても返還率が多いということがわかった。それまで送っていたDMの変換率の10倍。そうか、これがマーケティングなのかもしれない。自分たちのお客様が誰なのかを知って、その人たちがどこに住んでいて、どこに出かけて買い物をするのか?その場所で待っていれば良い。もしも自分たちのお店がその人たちが行く場所ではない所にあったら、こっちから出向くしかない。
何かを始めるにはお金がかかる。でも知恵を絞ればその費用は削減できる。
カタログやパンフレットを作るときは基本4ページ単位で作る。デザイナーならみんなが知っていることだけれど、印刷業者によっては2ページ単位でも注文できる。冊子には中綴じや無線綴じ、平綴じがあって中綴じが一番安い。それは加工方法が容易だからだけれど、知らない人は多い。
パッケージに模様やお店の店名ロゴを入れる場合、ホットスタンプ、シルク印刷、シール貼り、4色オフセット印刷があって、箱の作り方も貼り箱、折箱(組み箱)などがあり、何と何を組み合わせば安く仕上がるか?予算内で仕上げることができるか?
例えば折箱(組み箱)を作る場合はトムソン型という紙をくり抜くための型が必要で、それには数万円かかり、箱の下箱、上箱それぞれにトムソン型が必要。印刷会社が元々持っているサイズの型で作れば安くなるが、中に入れる商品のサイズに合わせてオリジナルの型を作るとコストが上がる。貼り箱は職人が一つずつ手で仕上げてゆくので単価は高いが1つから発注できる。前述の折箱の場合は最小ロットが1000個〜という場合もある。折箱の単価は40~80円として貼り箱は手作りなので1個当たり120~180円する。
1000個の折箱を50円で発注すれば合計50000円する。これに対し貼り箱を150円で100個発注すると15000円。つまり常に小ロットで小刻みに発注するのなら貼り箱が適していて、大量に同じ箱が必要な場合は折箱が適している。
シルク印刷やホットスタンプには版が必要で1つの版は10000円〜30000円。4色オフセットは特殊な場合でなければ版は必要ない。ただ、ホットスタンプやシルク印刷は場合によっては箱に加工した後から印刷できるが、オフセット印刷は印刷してから箱に加工する。
それぞれの特徴を知っていればパッケージ類もコストを下げることができる。
要はさまざまな知識を持っている方が事業にかかるコストを下げられるということになる。
何かを始める時に、その事業について何が必要でどんな知識があれば役に立つのかを知っておく必要がある。実はそれが事業を伸ばす原動力になることもあるからだ。
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