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事業再生のこと−15

事業を始めたばかりの頃は正しく利益が出ているかどうかだけに注意していれば良かった。
小さな儲けであれば、仕入れ額も小さく簡単には巨額の赤字が出ることは少ない。
それでも事業にかかる経費やランニングコストに注意が届かず赤字が出ることはある。

しかし、問題なのは事業が拡大基調に移ってからだ。
前年までの売上が翌年50%伸びたとすると、当然仕入額も50%大きくなっているはずだ。毎月の収支に合わせて仕入れをしていると、生産量が50%大きくなることを想定しながら予算を確保しなければならない。
しかし、事業を起こした当初は資金には余裕がなくギリギリの予算で仕入れをしている。それに毎月150%づつ売上が増えてゆくのなら良いが、前月は赤字だが翌月は200%の伸びを示すと前月の利益だけでは翌月の仕入れの余裕はない。
いわゆる「資金の焦げつき」を起こすことになる。

事業が拡大傾向であればあるほど「焦げつき」は起こりやすい。
年間のうち、いつ頃に売上が下がりいつ頃に売上が上がるのかを予測して、売上が上がった月には投下する資金を留保しておかなくてはならない。
最初から豊富な資金を持っているのなら、それを投下し、えられた利益から資金を回収すれば良いが、創業当時の資本の状況では焦付きを起こさないように様々な方法で資金調達をしなければならない。
一時的に資金が逼迫するとしても年間を通じて良好な業績を上げることを証明できれば金融機関からの資金調達も可能であるが、そのためには用意周到で裏付けのある事業計画書を製作する必要がある。
売上予測に裏付けがなく、それまでの実績にも説得力がなくては資金調達は難しいだろう。

資金調達は出来たとしても、その後の業績が落ち込み融資を受けた資金の返済が難しくなった場合は、入金ベースでは黒字であるのに倒産する場合もありうる。
資金調達に関しては幾つものルートを確保しておいた方が良い。もちろん資金が必要になることを予測して資本を大きく育てておくことも必要になる。ただし、ただ資本を溜め込むだけでは利益として多額の税金を接収されてしまう。

事業が拡大する見込みのあるときは、返済目処をつけながら金融機関から融資を受ける方が良いだろう。そして手強いのは税金との兼ね合い。

売上が上がるとともに当然税金も上がる。

(売上の増大)=(仕入額の増大)+(人件費の増大)+(ランニングコストの増大)+(税金の上昇)+(先行投資)

事業が拡大するということは様々な経費も膨れ上がり、拡大している間は利益が残っているような感覚はない。特に税金と先行投資しなくてはならない「設備」「人件費」はバランスを見ながら資本を投下しなければならない。その上で固定資産を育てなくてはならない。

資本を投下している間は、ほとんどの資産は流動資産であり、固定資産に変換されていったとしても、成長している間は固定資産も投下しなくてはならない状況が起こりうる。

成長すればするほど経営は慎重さを要求される。

ある一定の成長点を超えたならば、マーケット、財務、運営、税理、人材などの専門知識を持ったスタッフとともに経営をしてゆかなくてはならない。経営者がどんなに優秀であっても一人の人間のキャパを超える。

その上で、経営者は経営の方向性が目的とする成長の方向からズレないように、企業のカルチャーとアイデンティティを常に意識しなければならない。

法人化してからは「株式」という企業価値を測る指標が存在するが事業が拡大するときにリスクが存在し、拡大すればするほど資金が必要となりリスクもともに拡大することには変わりはない。このリスクを軽減し、大幅な資金調達をするために株式上場、すなわち企業価値を売買し企業価値に見合った資金を得る方法を選択する企業は多い。

しかし上場したからといって必ず大きな資金調達ができるとは限らない。また株式を上場した時から経営権は株主の手に渡る。だからこそ企業や事業の方向性や社会的意義はそれまでよりも重視されるし、経営者は経営のプロとしての手腕を問われる。さらに株の所有数の大きな株主は経営に立ち入ることが出来るようになる。株の上場をしないという選択肢もあるが、上場せずに会社を大きくするためにはどのように資金調達をするかという問題がある。

株の売買と投資は別のものであるから、海外のスタートアップ企業のように上場せずに成長し、資金の調達をしながら大きな企業に成長する場合もある。

事業が拡大するにつれて手法は複雑になり、選択肢も広がるが、いずれの方法を選択するかによって企業の成長や企業のアイデンティティは影響を受ける。

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