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5つの小さな物語-9ー「テールランプ」
「コラボレーション」
健児からZOOMで連絡が届いた。
「いいもの見せてやるよ。ちょっと待ってて」
健児は画面から消えるとしばらくして服を着替えて戻ってきた。
健児が着ているシャツに見覚えがあった。
「それって…」
そのシャツの柄はあの自習室で健児と作ったテキスタイルデザインが施されていた。原色に近い鮮やかな色彩は日本で見ていた時は派手すぎるかな?と思っていたけれど、ロンドンの部屋のインテリアの中に立つとむしろ斬新でカッコ良かった。
もちろん、柄の配置、襟の形や身丈などは健児のセンスに溢れていて、テキスタイルの良さを強調していた。
「いいだろ?ちょっとだけ細かいところはいじったけど、これ、ほとんどカナのデザインをそのまま使ってるんだ。カナは才能あるんだよ。でも俺の方がもっと才能あるけどな」
自画自賛する健児に苦笑しながら、カナは涙目になって言った。
「良かった。元気そうで」
「消失と創造」
訃報が入ったのはそれからわずか1週間後のことだった。
即死だった。
友人のホームパーティの帰りに、友達のバイクに乗ってはしゃいでいた健児が大型トラックに巻き込まれて事故を起こしたのだと聞いた。
1週間後に彼の遺体が日本に戻され荼毘に付された。葬儀の参列に泣き叫ぶ彼の母の姿があった。
それから1ヶ月間母親は姿を見せず、経営するアパレルの会長の座から身を引いたことを半年後に新聞で報じられていた。
カナはメディスンバッグを抱きしめながら三日三晩泣き続けた後、夢中で作品を描き始めた。それが彼の魂の供養であるかのように。
彼女は自分に言い聞かせていた。
健児は自由を手に入れた、と。
「バイクに乗って一体どこに行っちゃったんだよぉ」
あの日、赤いベスパに乗って追いかけたテールランプは、もう見えない彼方まで走り去ってしまった。
追いつけないかもしれないけれど
それでも走り続けるしかないんだ、とカナは思った。
埠頭で見た海の色のように、工場の灯りでキラキラと光る波のように
鮮やかな色のきらめきをカナはデスクトップに叩きつけていた。