革のおはなし-18
革の体験教室にはいくつかの条件がある。
●作る人間の技術に関係なく、ある一定のレベルの作品が完成すること。
●作る人間の技術に関係なく、ある一定時間内に作品が完成すること。
●出来上がった作品が実用に耐えること。
●出来上がった作品の機能が使う人の要望に応えていること。
体験教室を受講する人たちにとって、ある一定のレベルの作品が仕上がることは常に期待している。
多くの体験教室で課題に挙げられているのは「コインケース」「パスケース」「カードケース」「キーホルダー」などの小物類になっている。
体験料金は1000円〜5000円程度と幅広いが、出来上がる作品のレベルはそれほど大差はない。
最近ではミシン教室も増えたが、ミシンを操作する技術は毎日布の縫い物をしている人であってもそれほど技量が高いとはいえず、トラブルも多くなる。
型紙を提供して、その形に革を裁断する時点で型紙通りに裁断する技術を持っていない。
ある時、体験教室の途中で講師の方が教えられなくなったという受講生が相談に来たことがある。
すでに裁断された革を持って来られたが、どの裁断も不揃いで、「何を使って切られましたか?」と聞いたら布用の裁ちバサミを使ったと言われていた。布用の裁ちバサミを革に使う時点で洋裁の先生に怒られてしまう。
さらに、使うとわかるけれども厚い革をハサミで切ると断面は斜めに傾いてしまう。それに裁断線の通りに切るのは難しく、この時の革も歪に曲がってとても綺麗とは言えなかった。
もちろん厚い革を漉き機で薄くする技術もなく、裁断された革を見る限りどうやらトートバッグの型紙らしかったが、バッグの底の大きさと前身頃、後ろ見頃の長さはどうにも合っていない。「一回り小さくなりますが」と了承を得てから裁断をし直して、小さなトートバッグに仕上げた。
バケツ型のトートバッグを作るときに「バケツ型」=円錐形という先入観があって、型紙を台形に切ってしまう方が多いけれども、本当は円柱形に作れば、革の弾力でバケツ型に見える。
台形に切った時点で下と上の合わせを縫い合わせるとどちらも90度+90度=180度の真っ直ぐな縫い合わせにはならなくなって歪なカバンになってしまう。
申し訳ないが講師だった方は革もカバンもあまり分からないで教えていたのだろうと想像できた。
体験教室といえどもそれなりの技術も知識も必要だし、他の教室でやっている体験教室と同じレベルだといずれは講習を受けに来られた方は満足しなくなってしまう。
今ではYoutubeやネット上でたくさんの技術が紹介されていて受講生の知識も馬鹿に出来ないレベルに達している。
私が行っていた体験教室では3時間〜6時間程度で「革カバン」が完成し、しかもファスナーポケットなどが付いていて使いやすさと利便性を考慮して作っていた。
もちろんそのレベルの作品を時間内に作るためには、ある程度の下拵えをこちらで行っておかなくてはならないので準備はとても大変だった。しかも私の体験教室は全て手縫いの教室だった。
革の裁断、コバ処理、手縫い用の穴あけ、ファスナーの取り付けなどは予めしておいた材料を受講生にお渡しした。
受講生の方々の技量にも差がある。体験教室を始めた頃は早く縫える人を先に進める方法をとっていたけれど、それだと早い人と遅い人の差が1時間ほどもあって、しかも大抵時間を超過してしまった。
途中から、作業の工程を5回ほどに分けて、それぞれの工程を全員が終了するまで待つようにしていった。全員が終わるまでは次の行程には進まない。全員がその工程を終わって、初めて次の行程に進む。
このやり方に変えてから全員が同じ時間で完成し、しかも終了するまでの時間が短くなった。早く終わった受講生が遅れている受講生をサポートするようになったからだ。
人間の集中力は大体3時間ぐらいが限界、ということもわかってきたので、午前中に3時間、1時間休憩を入れて午後から3時間で鞄が一つ完成するように心がけた。そして終了時間は1時間のタイムラグをおいて、3時に終わりたければ4時が終了時間にした。これで遅い方でも受講時間中に完成できるようになった。
出来上がった鞄は、講習が終わると同時に使えるようにしたので、講習の終わりに持っている鞄から出来上がった新しい鞄に荷物を詰め替える方もおられたし、翌日出勤する時には新しい鞄を使える。
大きな鞄ではそれなりの講習料金が必要になるけれど、それでも完成した時の満足度が大きいのでワークショップは好評だった。
とても準備の手間がかかるワークショップはあまり誰も手掛けていない。
でもやってみる価値はある。