革のおはなし-17
革教室を始めて1年が経過した頃、生徒の人数は10名を超えるようになった。
その頃に家の大家さんから自宅と同じ路地中にある小さなプレハブ小屋を借りてくれないかという話があった。広さは10畳ほどの小さな部屋だけど、大きめの作業テーブルを置けば4人ぐらいは座れる。
本当に簡易な作りの小屋だったけれど何故か畳が敷いてあった。カーペットを敷いて、外壁にペンキを塗って、玄関前にウッドデッキを作った。
部屋の中の壁面には棚を作って収納を増やした。
こうして家の片隅で行っていた「革教室」は独立して小屋を改造した教室へと格上げをした。
路地の入り口に看板を置いてみると、時々人が立ち寄ってくれるようになった。
生徒数は少しづつ増えて3年目には18名になっていた。
4年目にもう一つの転機があった。
いよいよ手狭になっていた小屋から家ごと引っ越す話が持ち上がった。
きっかけは家内が「カフェをやってみたい」という話からだった。
革教室の片隅に小さな休憩コーナーが欲しいなと思っていたので、その建物の一階部分をカフェに改装して、二階に革教室と自宅を作る計画を練り始めた。
なかなか意に沿った物件は見つからなかったが、ある日住んでいた自宅の近所に急に物件が見つかった。
「改装自由」というその物件は長屋で隣とくっついていたが、隣もお店で音は気にならないということだった。ただし物件は老朽化していて改装は大変そうだった。
厨房機器や床を剥がしてコンクリートを敷き、水まわり、電気工事を施工業者に委託し、教室用の作業テーブルやカフェの客席など自分で作れるものは全て手作りすることで経費を節約してなんとかオープンにたどり着いた。
教室の作業スペースは格段に広くなり、一階のエントラススペースには教室で作る課題作品を展示した。
一階に降りればカフェで食事やお茶が出来るなかなか良い感じの店が完成した。
これまで置けなかった腕ミシンと漉き機を並べて置くことができ、2つの大きな作業テーブルには8名が同時に作業できる。革と道具類を収納できる棚を作り、各生徒が自分の荷物を収納できるカゴを棚に置いた。
立派な教室の作業スペースが実現した。
この時からわずか3ヶ月ほどで教室の生徒は20名を超えるようになった。
今度はそれぞれの生徒のカリキュラムの管理や時間割管理が必要になった。
そこから半年で教室の生徒は30名を超えるようになって、私たちの収入は安定するようになった。
この前後から「体験教室」もするようになった。
体験教室の鉄則として1日で必ず仕上がるようにすることがあった。
朝10時から開始して17時には必ず完成するように時間配分を考えた。
体制が整い始めた段階で私は「鎌倉での出張体験教室」を企画することにした。