事業再生のこと−23
何度でも問題は繰り返し起こる。
何度でも状況は悪くなる。
痛い思いに耐えなくてはならない。
にっちもさっちも行かないな、と考えてしまう。
手強い壁に立ち向かわなくてはならない。
●倍返しだ!
どこかで聞いたようなセリフ。
痛快極まりない逆転劇は見ていてスカッとする。
思いも寄らないところからホワイトナイトが現れる。
いやいや、それは本当は物語の中の話だけではないぞ。
物語の中の話だと思っている間は現れないのかもしれない。
買収劇の話じゃないけれど窮地に陥った時に自分の視界の片隅に白馬の騎士は存在する。
「白馬の騎士」は高嶺の花。手が届かないと思っている場所に咲いている。
「私たちにはまだ無理さ」と思うような場所にある。
だから、大抵そこに行こうとは思わない。
とてもとても喉が渇いていて、その花の根元に流れている湧水を飲まないと死んでしまうとしたら、這いつくばって岩をよじ登って花のところに行こうとするかもしれない。
いや、そうじゃなくてよじ登ったり手を伸ばしたりする人の目の前に花は咲くのかもしれない。もちろん世の中には不思議だと言えることも存在する。
あれは、「もうお店を閉じよう」と言っていた時。
ギリギリこの歳なら掃除夫や管理人の仕事ぐらいあるんじゃないか?
「それで借金を返せるなら、今やめるしかないよね」
でも、本当にやれることは全てやったのかな?
やっていないし、これからもしないのなら、それが自分たちの「選択」したことなんだろう。
この時点では花さえ見えてはいないし、湧水があるのかさえ分からなかった。
そう言っても仕方ないよね。これ以上ずるずると目的も夢もないことを続けるわけには行かない。
この時は知らなかった。何十回、何百回言っても「何もしなかった」パートナーが本当に石に張り付いてしまった腰を、見えないところで持ち上げていたことを。
初めて「悔しい」という感情を持ち始めていたことを。
ホワイトナイトはちゃんと見ている。
それから1週間経った頃に一つ目の湧水に辿り着いた。
「ぜひ、東京に来てそちらの商品を売ってみませんか?」
パートナーがいきなり送りつけた私たちの商品を評価してくれた大きな有名店からのお誘い。
それから遡ることさらに1週間。ネットであるお客様に商品を購入していただいた。ちょっとだけ多めの購入。最後になるかもしれないから良い商品を作って送らないとね。
あのお客様に商品が届いたかな?喜んでもらえたかな?
そしたら同じお客様からさらに大口の購入があった。
良かったね。きっと喜んでもらえたんだね。
「領収書が欲しいんだって」
「宛名は?」
思いも寄らない宛名にちょっと戸惑った。
誰もが知っている大手の出版社と雑誌の名前。
そのお客さんの後に一人目のホワイトナイトが隠れていた。
そしてホワイトナイトはさらに馬上から手を伸ばしてくれた。
商品はコンテストに出されて「準グランプリ」を受賞した。
買収を逃れたというのとは違うけれど。それは一つ目の奇跡だった。
「まだだよ、諦めるのは早いよ!」と頭をこづかれた気がした。
●諦めなければ奇跡は何度でも起こる
どうしても商談が成立しない得意先があった。
何度も足を運んだがいつもそっけない素振りで商談は自然消滅した。
「ここがダメだったら、あそこはどうだろう?」
それは自分たちにとってはとてもハードルの高い相手だった。
これまでの体制では仕事を受けるのも難しい。
第一、うちみたいな所を相手にしてくれるはずがない。
でもこの頃私たちの間で合言葉になっているフレーズがあった。
「ダメもと、だよね」
そう、ダメで元々。何もなかったことにすれば良い。
「何もしなければ、何も起こらない」
「何かをして、何も起こらなかったからと言ってクヨクヨするな」
という二つの意味を含んでいた。
パートナーは前の体験で「始めること」の大切さを学んでいた。
今度は躊躇せず、その高いハードルに手を伸ばした。
もちろん準備はしていた。
「一度こちらに来て話をしませんか?」
岩山を登ると、そこには花畑があった。
ここまでのいくつかの体験を経て、私たちは
「高い壁はよじ登るもの」
迂回して避けるものではない。
だってよじ登れば見た事のない光景が広がるのだから。
今では躊躇などしない。
道が寸断されればよじ登る。
●よじ登る姿を見ている人がいる
最近、不思議なことが起こるようになった。
頭の中でイメージしていた得意先が向こうから声をかけてくれるようになった。
「あそこ良いよね」
「興味あるよね」
「何だか最近良くなってない?」
なんて話をしていると、まるでそれを聞いていたのかのように連絡が入る。
足元には新しい大地が広がっている。
これまで巨大な岩山のように思えていた壁は、背の高さより少し高いぐらいの岩の塊になった。
横から顔を出すと向こうの景色が見え始めた。
それでもマッターホルンのように遠くにはまだまだ高い山がそびえている。
でもマッターホルンが登りたい山なのか?もっと自分たちに合った山があるのじゃないか?と思えるようになった。
それに、ふと横を見ると、自分たちと一緒に歩いている仲間たちが見える。
おぼつかない足取りで後ろをついてくる人の姿も見える。
これまで余裕がなくて振り返ることもできなかったけれど、今はその人たちに手を差し伸ばすことができる。
その人たちに声をかける。
「どうせダメもとなんだから、頑張ろうよ」
私たちはまだ「白馬の騎士」とは言えないけれど、
「ロバに乗ったドンキホーテ」ぐらいにはなれそうな気がずる。
だから明日も風車に戦いを挑む。
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