理系の選択は経済的自立の近道となるか?〜リケジョな子育てVol.15〜
noteマガジン『東工大飛び級ママの「リケジョな子育て」』/第15号です。
今回は番外編的に読書記録を。
少し前置きになりますが、この「リケジョな子育て」シリーズを始めようと思ったきっかけは、「STEM分野(STEMはScience, Technology, Engineering, Mathmaticsの略)で働く人の収入は、非STEM分野で働く人の収入よりも29%高い」という米商務省の2017年の報告書のデータを知ったことです。
29%という数字、どう思われますか?
私はけっこう大きいなぁと感じました。
「女性は理系の仕事に向かない」といった世間の思い込みが原因で、理系の進路への興味を失ったり断念したりして、その29%を取りこぼしているとしたら…。経済的自立を手に入れる手段の一つとして理系という選択肢を応援したい、そのために役立ちそうな経験や考え方をシェアしていきたい、というのがそもそもの発端です。
そんな経緯もあって、今回紹介させていただく本、『なぜ男女の賃金に格差があるのか - 女性の生き方の経済学』(クラウディア・ゴールディン著、慶應義塾大学出版会、2023.04.05発行)を手にしました。
この本の著者は、2023年に男女の賃金格差に関するの研究でノーベル経済学賞を受賞したクラウディア・ゴールディン博士。こちらの本では、この100年の女性の就労環境について世代ごとに5つのグループに分けて分析しつつ、現在もなお残る賃金格差を生んでいる理由について論じています。
中でも興味深かったのが、職種と賃金格差に関する次のくだり:
このデータは、2009年から2016年にかけての米国地域社会調査の結果ということで、以下の3つの条件を満たす方々を母集団として産業グループごとの傾向を調査したものとのことです。
・調査した年にフルタイムで通年勤務している者
・男性労働者の平均年収が65,000ドルを超える職業に就いている者
・25歳から64歳の大卒者
この結果をみると、理系出身者が多くを占める分野の方が男女の賃金格差も小さい傾向があることがわかります。そうすると理系を選択することで、賃金格差の小さい業界でキャリア形成できる、というふうに考えることもできそうです。
けれども、著者は『たとえすべての職業分化を撤廃するという難しい修正を行ったとしても、その効果はそれほど大きくないだろう』(同書、p.227)と述べています。つまり、男女の賃金格差が小さい傾向にある職種を積極的に選択するようになったとしても、全体としての格差解消の効果は大きくないだろうということです。
では、何が男女の賃金格差の大きな原因となっているのでしょうか。この本にはこう書かれています。
このことは、職種の選択もさることながら、仕事と家庭(特に育児)との両立が賃金格差の原因となっていることを意味しています。
育児では、保育園のお迎え時間との兼ね合いで職場にいられる時間も短くなりますし、突発的な発熱での呼び出しなどイレギュラーに対応する必要もありますよね。こうした状況に夫婦のどちらが対応するのか。多くの家庭ではその役割を女性が担う割合が高いため、長時間労働や職場での待機を求められる職種では特に男女の賃金格差が開いてしまう、ということです。
ここで、改めて先ほどの業種と賃金格差のデータに戻ると、格差の大きい職種では長時間労働や職場で待機できることが必要とされ評価対象となる傾向があるのに対し、格差の小さい職種ではそういった傾向がそれほど高くないという、職種ごとの構造の違いがあるようです。
そうすると男女の賃金格差の解消には、育児のために一時的に柔軟なキャリアを選択したとしても、そのことが後々ペナルティとならないような評価システムを作り、定着させることが鍵となってくるように思いました。
(これは男性にとってもメリットありで、男性育休も取得が促されているとはいえ、取得率も取得日数も女性に及ばないのは、そこでのブランクがその後のペナルティとなることへの恐れなのではないでしょうか)
とはいえ、です。
全体的な格差解消には社会全体の変化が不可欠ですが、それらは個人の力ではすぐに変えられる性質のものではないわけです。
個人レベルでは自分の決断で、自分が納得できる道に近いところを選び続けることしかできません。
そうするとやはり、理系科目が面白いと興味を持ったなら、それは十分に理系の仕事に就く素質があるということ。「女性は理系の仕事に向かない」といった世間の思い込みに惑わされずに、心の声に従って理系の道を選んだ方が、結果的に男女格差の少ない世界へ飛び出すことにもつながる、と思わずにはいられないのです。
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