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【KX物語 第12話】kさん、「楽しむことをなまけてはいけない」を聴いて、そうかもと思う。
「さっきの声の中に、カイシャという幻想っていうところがありましたよね、自分で創り上げている幻想に縛られているって。それ聞いて、あ、自分のことだな、と思ったんです。『全く違う!』って回答しているのは、会社がそうさせているんじゃなくて、自分がそうしているんじゃないかって。出来ないって思っているけど、そう勝手に思い込んで、やっていないんじゃないか、って。自分のせいなんじゃないか、って」
マスターは、何度も何度も深く頷きながら聞いています。kさんの話は止まらなくなっています。少し前までは、初対面の、それもどこの誰だかよくわからない人に自分の内面の話をするつもりなど全くなかったのに、今は話したくてしょうがない、というkさんがいます。
「今いる部署に来た時のことを思い出したんです。部署全体の体制がガラッと変わった時で、、、うまくいってなかったんですよね、で、大きく見直そうっていうときだったんです。異動したばっかりの時は、なんかワクワク感あったし、いろいろ議論していたんですよね。でも、基本方針が固まったあたりから、ちょっと雲行きが怪しくなってきて、、、」
「・・・何があったんですか?」
「・・・なんか、ヘンな感じで決まったんですよね。それまで議論してきたことはそれなりに活かされたカタチになったんですけど、全然話に上がっていなかったような方針とセットになったみたいな感じで、、、」
「・・・なるほどなるほど。ありそうな話ですね」
「で、KPIも決まって、、、KPIマネジメントの実績のある人が転職してきたんですよね、なんかスマートに仕組みを創って、、、でも、しばらくやっても、なんか変わらないな、うまくいかないな、って感じになってきて、、、」
「・・・それもありそうな話です」
「で、ヘンだなって思いながらみんな黙っちゃってるというか、、、」
「・・・kさんも、ですか?」
「はい」
Kさんは、力なく答えます。そして、黙り込みます。マスターは、前のめりになっていた身体を起こし、椅子の背もたれに身体を預けると、何度も深く頷いています。
しばらく沈黙が流れます。ふと、Kさんの耳に、BGMの歌詞が飛び込んできます。店に入ってきた時に聞こえてきた歌モノと同じボーカルの声です。
読めなかった本
観られなかった映画
聴けなかったコンサート
会えなかった人
できなかったこと
毎日たくさんの可能性が
気にもとめられずに消えていく
この膨大な犠牲は
いったい何のために払われているのだろう
・・・またさっきの暑苦しいボーカルだな、、、自己啓発ソング?
心の中でクサしながら、kさんはついつい聴いてしまいます。
・・・曲やアレンジはいいんだよなあ、何か聴いちゃうよなあ、、、
小さな夢をつぎつぎ捨てているうちに
気がつくと大きな夢を
見失っていたりしないだろうか
ときどき立ち止まって
自分自身に問いかけてみよう
人生を楽しんでいるかい?
答えに詰まったら
とにかく何かをしてみよう
どこかに行くのも良いし
誰かと話すのでも良い
楽しむことを
なまけてはいけない
楽しむことを
なまけてはいけない
・・・とにかく何かをしてみよう、か、、、そうだよな。私は何もしていなかったんだよな、、、なまけていたんだよな、、、
すると、マスターが再びkさんの方に身を乗り出してきます。
「そうかもしれませんね」
「、、、なんですか、また読心術ですか。そういう相槌のしかたやめてもらえますか気持ち悪い」
「ひとつわかったことがあります」
「、、、あのね、私の話聞いてます?」
「-73って、とても低い点数じゃないですか」
「、、、そうみたいですねえ。あなたにそこまではっきり言われると、なんだか自分がすごくダメな人間に思えてきますけど」
「そんなことはない、ということです」
「、、、どういうことですか?」
「kさんは、期待値が高いんだと思うんです」
「期待値?」
「ええ。あなたは、今の仕事や職場の状況には心からがっかりしている。ですよね? このスコアですから。でも、辞めたいと思っているわけではない。普通の人なら、このスコアが出てくる状況だったら、無力感でいっぱいになるはずなんですが、どうもそこまでではない。とするならば、、、」
「私が求めているものが高すぎるから、こんなに低い点数が出た、ということですか?」
「こんなに低い、なんて自分を卑下しなくてもいいですよ」
「、、、あなたがそうさせてますけど?」
「求めているものが高すぎる、というわけではないんじゃないですか? きっと、kさんは、仕事や職場が自分にとってとてもいい状況だった、ワクワクしながら仕事していた、という経験があるんじゃないですか?」
突然に雄弁になり出したマスターにちょっと驚きながらも、kさんは今の問いかけに想いを馳せ始めます。
・・・ワクワク、かあ、、、そうだなあ。前の会社ではそんなときがあったなあ、、、
その思いを断ち切るようにマスターが手を叩きます。何かと思って顔をあげると、テーブルの上に置かれているもうひとつの紙を指さしています。
「これ、そろそろ見てみましょうか」
kさんは、もうひとつの紙があったことを思い出し、すぐに手を伸ばすと4つ折りにたたまれているもうひとつの紙を開いていきます。そこには、先ほどマスターがタブレットで見せてくれた5つのコンセプトと、それぞれのコンセプトに対応する5つのフレーズが一覧になっています。全部で25あるフレーズの中の5つのフレーズに、チェックがついています。紙の上には、KX Goalsというタイトルが書かれています。
紙を見ているkさんに、マスターが話しかけます。
「5つのコンセプト、25のゴール、って呼んでいます」
「ゴール、ですか」
「KXGsですね」
「ははあ。KXもそうですけど、そういうパクリシリーズなんですね、ネーミングは」
「パクるなんて失礼な。盗んでなんかいませんから。インスパイアされたんです」
「どこかの業界では、その言葉、実質的に盗んでいる時に使っていますけどね」
そんな軽口を言いながら、kさんは、チェックのついた5つのフレーズを心の中で唱えます。そして、開いた紙をテーブルに置くと、マスターの方に向きを変えて差し出します。
「こんな感じですね」
マスターは、お穏やかな笑みをうかべたまま、その紙を覗き込みます。チェックがついているのは、このフレーズです。
《会社の一員》というレッテルを剝がそう。
自分を感じよう。自分を信じよう。
ひとの人生に口出ししよう。
未来を見よう。変わり続けよう。
未来の話をしよう。青臭い話をしよう。
(つづく)