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初めての推し活

私が学生の頃、高橋さん家の陽子さんが突然会社に行かなくなりました。それから数年間部屋に引きこもったままだと聞きつけた母は、なぜか私をその家に送り込みました。

「高橋さん家で美味しい夕食を食べさせてもらいなさい。」と。

高橋さん家の食事はびっくりするくらい美味しく、たらふく食べる私の事をご両親はたいそう気に入ってくれました。

ある日、陽子さんが夕食後に「私の部屋に入っていいよ。」と招き入れてくれました。

「この人が好きなの?」と私は冷静に訊きましたが、内心驚きまくっていました。

壁一面から天井まで、男性アイドルのブロマイドやポスター、歴代カレンダーやプリントTシャツが飾られていました。これが初めて目の当たりにした『推し活』です。

「初めて見ました、すごいですね。」と触らないように気をつけながらグッズの数々を見回りました。それから食後に陽子さんの部屋でライブDVDや出演ドラマを見るようになりました。

しばらくすると、「どのグッズが欲しい?」と陽子さんは言いました。「好きなの、あげる。」と。「え、でも、大事なやつですよね?」と私が言うと、「いっぱいあるから。」と少し恥ずかしそうでありながら、裏腹の熱量でいろんなグッズをおすすめしてくれました。

私が「ペンライトにします。」と指さすと、 「それはこのTシャツとセットだから。」と2つのアイテムを私にくれました。

それから、陽子さんの部屋で音楽番組を見る時にはTシャツを着て、ペンライトを振りかざし、観覧気分を味わいました。すると陽子さんは、「こうやって見ているだけでは嫌だ、ライブに行きたい!」と沸点を上げ、さらに「推しに会うとなればダイエット!」と言い出したのです。

それから陽子さんは見事ダイエットを成功させ、グッズをもっと買うために再就職も成し遂げました。職場で推し活仲間もできたと言うのです。推し力を目の当たりにして、尊く思いました。

私のアイドル推し活体験は、その1度きり。先日その男性アイドルデュオが改名したと聞いて私と陽子さんの硝子の少年時代が甦りました。

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こゆき(koyuki)
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