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石破首相がライフリンクの「自殺対策の現場」を視察
2025年1月21日、石破茂首相と福岡資麿厚生労働大臣が、NPO法人ライフリンクといのち支える自殺対策推進センター(JSCP)の事務所を訪れ、自殺対策の現場を視察しました。
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NPO法人ライフリンクは、これまで20年にわたり、自殺対策基本法の制定や改正など、自殺対策の枠組み作りに深く関わり、現在は自殺リスクを抱えた人への直接支援(自殺防止相談)を行っています。
今回の視察では、自殺対策の最前線とも言える相談の現場の状況を深く知っていただこうと、石破首相と福岡厚労大臣に対し、ライフリンク代表の清水康之と副代表の根岸親が、SNS・電話相談(「生きづらびっと」「#いのちSOS」)での相談対応事例や相談対応体制などについて説明しました。
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ライフリンクの相談対応体制は、全国に約250人の相談スタッフがおり、常時、平均20名の相談員がオンラインでつながりながら相談対応に入っています。
実際の相談では、対話を通じて気持ちを受け止めるだけでなく、自殺リスクの高さなども踏まえて具体的な介入が必要と判断された場合、相談者の同意を得て、「コーディネーター」と呼ばれる担当者が継続して関わる仕組みがあることもお伝えしました。
「もう死ぬしかない」と思い詰めている相談者に継続的に関わり、地域の福祉や支援機関などへ丁寧な橋渡し役を担う「つなぎ支援」が重要である点も強調しました。
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一方、昨今はSNS・電話の相談窓口がパンク状態でつながりづらい状況があったり、そもそも相談することに抵抗感があったりと、「相談につながら(れ)ない人」が少なくないことも課題になっています。
そうした主にこども・若者の新たな受け皿として2024年3月に創設したのが、オンラインの居場所空間「かくれてしまえばいいのです」です。この「かくれてしまえばいいのです」も、石破首相に体験していただきました。
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体験にあたっては、代表の清水より、「かくれてしまえばいいのです」のなかでも利用が多い「ロボとおしゃべりコーナー」が、生成AIを活用したコンテンツとして、人(相談員)が対応する相談窓口とは異なる役割を担っていることを説明。
しんどい気持ちをAIロボに吐き出してもらい、やり取りをするなかで、少しずつ気持ちを落ち着けてもらうなど、「相談することの入口」のような位置づけにあることを伝えました。
石破首相も関心を示しながら、「『どうせあなたなんかに相談しても、わからないでしょう』と入れたら、どうなりますか?」と質問。その問いをAIロボに対して投げかけると、「そう感じるのも無理はないかもしれないね。でも、アタシはあなたの話を聞くためにここにいるんだ。少しでも気持ちが楽になるなら、話してくれたらうれしいな。」と返答がありました。
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この生成AIを活用して開発されたロボは、ライフリンクが運営する自殺相談窓口で培われた知見をもとにカスタマイズされています。「相談」ではなく、「おしゃべり」と位置付けており、対話を通じて自殺リスクが高いことがうかがえる場合は、必要に応じて相談窓口の利用をすすめる設計になっています。
他にも、「かくれてしまえばいいのです」が、匿名・無料で24時間いつでもだれでも利用できることなどをお伝えしました。
※視察の様子の動画は、首相官邸ページの「関連動画」より、ご覧いただくことができます。
視察を終えた石破首相は、同行していた記者の質問に応じ、次のように語りました。
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「今日伺っていて非常に印象的だったのは、(自殺で亡くなる方は)『誰も死にたくない』と。できれば死にたくないという人たちが『誰か聞いてくれないだろうか』という機会、これをどう提供するかだと思っています。それが生成AIとか、いろいろな新しい技術によって聞ける体制、あるいは『かくれが』を作るといった新しい技術を組み合わせて、そういう人たちの気持ちに応えることが、できるようになるんだなと思いました」
さらに、学校での1人1台端末を活用した自殺リスクの把握など総合的な自殺対策を進めるとしたうえで、結びに「人ひとりの命をどうやって、『人命救助』という観点に立って(体制を)作っていくかで、政府としてこれから先、取り組むべきことはたくさんあると思っています」と述べられました。
自殺対策支援センターライフリンクといのち支える自殺対策推進センターを視察しました。現在、特に小中高生の自殺者数が深刻な状況にあります。オンラインの居場所づくりやAIも活用した相談を進めるとともに、学校での1人1台端末を活用した自殺リスクの把握など総合的な自殺対策を進めます。 pic.twitter.com/6nfLpwRAUF
— 首相官邸 (@kantei) January 22, 2025
本日(1/21)、石破総理と福岡厚労大臣にライフリンク及びJSCPの事務所を視察していただきました。ライフリンクでは相談対応事例の説明をした上で、対応の現場をご案内。続いて、JSCPでは事業の説明や学校で行うべき自殺対策等について提案させていただきました。… pic.twitter.com/uhbxdXucz2
— 清水康之/NPO LIFELINK (@yasushimizu) January 21, 2025
2025年のいま、自殺問題は依然として深刻な状況にあります。自殺者の総数はピーク時の3万人台から2万人台前半に減っているものの、この30年、毎年新たに2万人以上もの命が自殺によって失われているのが、日本社会の現状です。
昨今、とりわけ深刻なのが、こどもの自殺です。小中高生の自殺者数は2020年に400人を超えて以降、高止まりの状況が続いており、2022年は514人と過去最多を更新、2023年も513人のこどもが自殺で亡くなりました。G7の中で10~20代の死亡原因の第一位が自殺であるのは日本だけであり、こどもや若者の自殺は極めて深刻な社会問題です。
そうした事態に対し、ライフリンクが担う「生きることの包括的な支援」としての社会的基盤を整備・改善するには、政治の力が不可欠です。今回、石破首相と福岡厚労大臣が自殺対策の現場を直接視察されたことは、自殺対策を推進していく上でも大きな布石となるはずです。
ライフリンクは引き続き関係各所と連携しながら、自殺対策(生きる支援)を推進していきます。
(写真撮影=八木沼卓)