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ヒストリー⑤始まりの前に・2000年8月

覚悟と決心の番組制作


  あしなが育英会の合宿「夏のつどい」に参加したNHKの清水康之ディレクター(現ライフリンク代表)は、父親を亡くした男子大学生の「自分語り」に引き込まれていきます。

「僕のお父さんは自殺しました」。そこから彼はもう涙が止まりません。「お父さんとよく釣りに行ったんだけど、その釣りにももう行けなくなってしまった。たぶん借金を苦にしてなくなってしまったんだけど、今も僕たちはその工務店に住んでいて、きっとこの家を守るためにお父さんは死んでしまったんだと思う。僕が私立の学校に行っていてお金がかかってしまったから、それでお父さんに負担をかけてしまったんじゃないか。このことは友達にも言えなくて、聞かれるのが怖いから、友達もつくらないようにしている」

 話すことすらできない。話せないから、友達もつくらない。清水ディレクターは、親を亡くした自死遺児の追い詰められた姿に、何重もの衝撃を受けました。
そして、この合宿に参加したことで、「話を聞かせてくれてありがとう」と言うだけではすまされない責任を背負ったと感じます。

清水ディレクターは、あしなが育英会から東京にいる自死遺児の大学生たちを紹介されます。
清水ディレクターは大学生たちに、テレビ番組で自殺問題を報じたいと思っていること、そして、もし出演してくれる場合は、顔も名前も出すことを承諾してほしいと伝えました。
顔をぼかし、声を変えて、名前も仮名にしての出演は、「親を亡くした子どもは、顔も名前も隠して生きていかなければならない存在」だという全く誤ったメッセージになりかねないという強い思いからでした。

一方で、顔や名前を出すことで周囲から何を言われるかも分かりません。清水ディレクターは、顔や名前を出して体験を語ることのメリットとデメリットを率直に遺児たちに伝えて、本人たちが決断してくれるのを待ちました。そうした中、ひとりの大学生遺児が「清水さんの取材をぜひ受けさせてください」と名乗りでます。

清水ディレクターが制作したNHK番組「クローズアップ現代」の「お父さん死なないで ~親の自殺 遺された子供たち」は2001年10月23日に放映されます。

自死遺児たちの覚悟と決心、そして、それを受けた清水ディレクターの番組は、大きな反響を呼び、様々な形で自殺対策を大きく動かしていくことになります。これについては後ほど詳しく紹介します。
                                                   =続く  次回は、⑥2001年2月編「シンポジウム開催、遺児たちの決意」です。


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